第922話 プロジェクトH(5)検査

 電極を付けて、霊を視、札に浄力を流す。

 同様に、美保さんが伏見さんを憑けた状態で調べ、次に美保さんの意識を伏見さんが奪った状態でも調べる。

 比較のために、同じ事を神戸さんでもやっておく。

 そして、取ったデータを並べて、見比べた。

 実験を面白いと言い、協力してくれた医師は、解説をしてくれた。

「憑かれた人ですが、操られている時は、脳が寝ているのと同じ状態になっています。

 憑かれているだけで操られていない時は、脳は活性化されています。

 その霊が離れた後では、脳がリラックスした状態になっていますね。まあ、憑かれている間、本人は気付かなくても、脳は何らかのストレスを感じているのでしょうかね。

 霊能師の方は、とにかく脳が活性化しています。普段眠ったままの領域が特に顕著ですね」

「何かわからない、発見されていないアンテナが霊能師にはあるという事ですか。それが、眠った場所の脳につながっている」

 僕が訊くと、医師は考えてから、うんと頷いた。

「そうかもしれない。

 実に面白い」

 直が訊く。

「よく、家系的にこの能力を引き継ぐ事がありますよねえ。見える家系とか、そういうの」

「ああ。あれは、この領域の脳を使うスイッチを入れる事の出来る何かが、遺伝子にあるのか。もしくは、環境的な要因でそうなるのか。それはわかりませんね、現代の医学では」

 悔しそうにしながらも、楽しそうにその医師は言った。

「じゃあ、試作2号機はどういう風に改良したら?」

 京極さんが唸り、

「あ、霊能師のその部分の脳を組み込む!」

と嬉しそうに言い、僕達はひいた。

「マッドサイエンティストかよ、京極さん」

 神戸さんが言って、京極さんは我に返ったように咳払いをした。

「冗談よ」

 そうは聞こえなかったが……。

「じゃあ、家系から霊能師の人の血液とか髪とかを組み込んでみたらどうですか?ばけたんの、霊石みたいなもんで」

 神戸さんが言い、美保さんがポンと手を打つ。

「ああ!松島さんとか!」

 ああ。松島さんのお婆さんは、四国で有名な霊能師だったな。

「やってみよう」

 僕達はすぐに陰陽課に戻った。


 松島さんは、嫌そうに眉をひそめた。

「血ですか?」

「髪でもいいです」

「ああ。古来、髪に霊力が宿るとする話とかは多いしね」

 京極さんが冷静そのものの声音で、狙っていますと言わんばかりの顔付きで言うと、神戸さんが援護射撃をする。

「係長はどうなんですか?よっぽど効きそうなのに」

「僕は後天的なタイプだし。頭ぶつけて位牌を蹴った後からな」

「ボクも、霊に体を貸してからだからねえ」

 しかし本当の事を言えば、亜神になってしまっているから、今後の事を考えると除外した方がいいと思うからだ。

 松島さんは嫌そうにしていたが、

「わかりました。どうぞ」

と言った。

「ありがとうございます!」

 言って、京極はそっと少量の髪を切った。

「うふふふふ」

 そして、笑う。

 それはあまりにも怖くて、松島さんも青い顔で引いていた。

「だ、大丈夫でしょうね、係長!?」

「責任をもって、おかしな事には使わないと約束する」

「霊能師の髪は、呪物になるからねえ」

 僕と直は、京極さんにも聞こえるようにしながら約束した。

「ああ、藁人形に髪を入れたりするし、髪と歯と身に着ける布で呪う方法があるそうですね」

 神戸さんが言い、それで京極さんも気を引き締めたらしい。

「試作2号機以外に使用しません」

 そして、製作にかかった。






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