第921話 プロジェクトH(4)試作1号機

 試しに、鑑識課員の1人に憑いてもらうと、ばけたんは赤く光った。

 そして離れてもらうと、ばけたんは黄色く光った。

「黄色だねえ」

「でも、他の場所で出た黄色と区別がつかないな」

「別のファクターが必要ってわけね」

 そこで5人は陰陽課に戻り、考え込んだ。

「そのファクターって何だろう」

「あ。疲労物質はどうだ?生気を吸われてだるくなったりするだろ」

 言うと、直も、ポンと手を打つ。

「成程ぉ。一般人ほど、それがあるよねえ」

「疲労物質ってどうやって図るんです?」

 神戸さんが首を傾けるのに、答える。

「血液や体液を計測するから、汗でもできるんじゃないか?腕時計型の血糖計測器とか最近はあるし」

 それに、京極さんが力強く頷いた。

「成程。わかりました。では早速、試作してみます。できたら連絡します」

 そして飛ぶようなそわそわした足取りで部屋を出て行った。

 ニタニタとしながらブツブツと呟いていたのが、何とも不気味だった。


 数日後、試作1号機が出来上がったというので、全員集まった。

 陰陽課で出来上がりを待っていた伏見さんも、興味津々といった様子で見ている。

「では、伏見さん。憑いてみてください。そうですね。神戸さんに」

「ひええ!?」

「経験だよう」

 それを美保さんが、物凄く羨ましそうに見ていた。

 伏見さんが神戸さんに憑く。

 そして、離れる。

 ガチガチに緊張した神戸さんに計測器を付けて、待つ。

 皆が固唾を呑んで見守る中、ランプが点いた。

「おお!点いたねえ!」

 まずはホッとする。

「あとは、これで他の人も計測してみよう」

 それで、羨ましそうな美保さんで計測してみる。

「反応なし!」

「ようし!次、誰か」

 京極さんが言って見回した時、十条さんがくしゃみをした。

「ああ、十条さん。頼む」

「はい」

 十条さんは鼻声で返事した。風邪らしい。

「結果は……あ、反応ありだ」

「憑いた形跡はないな」

「じゃあミスか。チッ」

 京極さんが舌打ちをした。

「ああ。風邪ひきとか運動の後とかで本当に疲れていたら、疲労物質が出てるもんな」

「ああ、そうかあ」

 こうして試作1号機の実験は終了し、僕達は暗礁に乗り上げた。


 ふと思いついた事があったので、招集をかけたのは、翌日だった。

「何か思いついたんですか」

 京極さんが、ギラギラとした目を向けて来る。正直、伏見さんより怖い。

「いや、視線を感じるとか気配を感じるって、どういう理屈だろうと思って。

 それに、僕達が霊を意識して視る時、どういう脳の状態にあるのかと思ってな」

「カンって何だろうねえ」

 伏見さんも一緒に考え込む。

「まあ、そういうわけだから。とにかく脳の働きを調べたらどうかな」

「成程。それは興味深い。憑依状態の人も調べてみたい」

 そして僕達は、病院の協力を得て検査をする事になった。

 が、美保さんが縋り付く。

「係長!お願いです!僕も!僕もぉぉぉ!」

「……まあ、憑かれて操られている人のサンプルも欲しいしな」

「やったー!」

「何でそんなに憑かれたいのかわからない……」

「普通はそうだよう、神戸さん」

 開発は難航しながらも、熱は冷めなかった。





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