第924話 クリスマス会(1)体育館に響く鈴
小学校から相談が来たのは、クリスマスを前に、皆が浮かれている最中だった。
「誰もいない体育館から、鈴の音がしたりするらしい。それで児童が怖がって、体育館に近付けない子はまだましで、学校に登校できない子が続出だそうだ」
徳川さんがそう言う。
「何か事故でもあったんですか?」
僕は訊いてみた。
「創立3年。何もこれと言って事故もなかったそうだよ」
それに直も、苦笑を浮かべた。
「創立3年でも、七不思議とかできるもんだよねえ。それが不思議だよねえ」
それで思わず3人で笑ってから、
「じゃあ、頼むね。冬休み前に何とかしてもらいたいって事だから」
と徳川さんが言った。
「新学期から登校拒否する児童続出になると困るもんな」
「何だろうねえ。体育館なら、跳ねるボールとかじゃないのかねえ?」
「変だよなあ。まあ、行って視よう」
僕と直はそう言って、早速その案件に取り掛かった。
小学校へは、電車で20分ほどだ。
向かう途中に見える町は、もうすぐ来るクリスマス一色だ。
「優維ちゃんのところの幼稚園、クリスマス会があるんだよな」
「そうだよう。クラス毎に合唱をする程度らしいけど、毎日家でも練習してるよう。それで累も、一緒にねえ」
にこにこと直が言う。
長女の優維ちゃんは近所の幼稚園に通っているのだが、募集時期と引っ越しの時期が合わず、たんぽぽ幼稚園ではなく、私立のミッション系の幼稚園だ。
ここは、クリスマスには子供達の合唱と教師たちのキリスト誕生の部分の劇を毎年クリスマス会として行い、父兄も見学できるようになっているのだ。
「ビデオで撮っておかないとな。
当日は何も起きないで、ちゃんと休めることを祈ろう」
「うん。本当にそうだよう」
「少々は大丈夫。僕が何とかするから」
「頼むねえ」
何だかんだと話しているうちに、僕達はその小学校に着いた。
創立3年だけあり、まだ新しい。
正門に詰めているガードマンに取り次いでもらって待つ間にも、グラウンドで体育の授業をする児童の声や、リコーダーの音、教科書を音読する声が聞こえる。
少し待つと、壮年の男性が現れた。
「お待たせしました。校長の松山です」
人の良さそうなおじさん、といった感じで、「校長先生、校長先生」と慕われていそうだと一目でわかる。
「陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「よろしくお願いいたします。児童が怯えてしまって……。
さあ、どうぞ」
顔を曇らせた校長の先導で、僕達は校内に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます