第914話 神様が多すぎる(1)神の集まる神有月

 弥生やら五月やら、日本では月に異名が付けられている。その10月。今月だけは特殊で、全国同じ呼び名を使う中、出雲だけ、別の名を使う。

 神有月。

 全国の神様が出雲に集まるのが10月なので、出雲以外では神がいなくなるということから、普通は神無月と呼ぶ。

 しかし出雲にとっては全国の神様が集まって来るので、神有月と呼ぶのだ。

 では、集まって神様は何をしているのか。

 会議やら情報交換やら伝達事項やら、どこの神が滅んだとか、こんな神が新しく生まれたというのもたまにある。そう、今年の僕達だ。

「顔つなぎかあ」

 僕は、神様の世界もヒトと似たようなものだなあ、と思った。

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「ドキドキするねえ」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

「なあに。いつも通りでいいさ。皆、名前と噂はとうに知っているからな。単に、話した事が無いってだけだ」

 照姉が気楽そうに言って缶ビールをプシュッと開ける。

 天照大御神がこれだと、わかる者はそういないだろう。キリッとしたハンサムウーマンだ。

「全員集まるんですか?」

「そうだ。

 まあ、怜も直もわたしのそばにいればいい。向こうから挨拶に来るから紹介してやるし、絡まれる事もない」

「絡む人もいるのか」

「神なのにねえ」

「酒癖の悪い奴もいるぞ」

 照姉はケラケラと笑って、

「あ、いかん。毎週見ているドラマ、録画予約していないんだ。今日はもう帰る。じゃあな」

と帰って行った。

「なあ。神様って、割と人間っぽいよな。まあ、古事記とか読んでうすうす気づいてたけど」

 言うと、直も、

「そうだねえ。神のトップである照姉が、ああもざっくばらんだしねえ」

と頷く。

「まあ、堅苦しくて難しい事を言われるよりはいいな」

 僕達はそう結論付けて、10月の訪れを待ったのだった。


 あの世から、神の集会所へ行った。会議は昼間、夕方以降は飲み会らしい。

 そして僕と直は知り合いやあった事のない神に挨拶し、宴会に混じっていた。

「神の扱いがこの頃軽くない?」

「そうそう。SNSとかでもすぐに、『神!』とか言うしね」

「あと、『このラーメン、神!』とか。

 ラーメンは神じゃないからね」

「ははは。神なら食べちゃダメだよ」

「どれだけ神様がいるのかな、この国。勝手に名乗るの禁止!神の推薦が必要!」

 神様達の雑談を聞いているのも楽しい。というか、普通の雑談だった。

「この前、犬そっくりなお茶の葉の人形を見たのよね。ええとね。あ、これ!」

 差し出されたスマホを、僕と直と近くの神が覗き込む。

 そこには、お茶の葉を使って作り上げた犬が映し出されていた。

「うわあ、凄い」

「器用だねえ」

「本物に見えるぜ」

「でしょ。可愛がってたペットが死んで、それでペットそっくりに作ったんだって」

 感心して、僕達はそれを見た。

 しかし、思いもよらない所で、その犬を見かける事になるのだった。


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