第910話 呪いになった人(2)呪われた会社
あるブラック企業と言われる会社の社員が立て続けに、事故に遭ったり心筋梗塞などで急死したりして、ネットでも「恨み」やら「呪い」やらと言われ始めた頃だった。
「蜂谷が?」
訊き返すと、誠人が神妙な顔で頷く。
信山誠人。元は暗殺などをさせられていた無戸籍児だったが、自分のした事がようやく理解でき、反省したので、戸籍を与え、蜂谷が保護者となる事で陰陽課に属する警察官になった、2係の若手だ。
「元気がないって、夏バテかねえ?」
それに誠人は首をわずかに傾げた。
「まあ、食欲もないけど、夜も寝られないみたいだし、何か考え込んだりぼんやりしたりしてて」
僕と直は、それに思い当たった。
蜂谷の妹は、ブラック企業に務めていて、追い詰められて自殺した。それで蜂谷は敵を討つために、妹を死に追いやった上司や同僚を呪殺し、呪殺を請け負う外法士になったという過去がある。
今は反省し、表の霊能師の免許を取り直して協会に所属している、解呪などのエキスパートだ。
「呪われたブラック企業の噂で、妹さんの事を思い出したかな」
言うと、直も肩を落とした。
「同じような事件だったもんねえ。最初に自殺したOLさん」
どうして無くならないんだろう。事件の直後は、皆反省するのに。
「わかった。近いうちに行くよ」
「お願いします」
誠人は少しホッとしたような顔をした。
僕と直は、それについての調査が陰陽課に持ち込まれたので、担当する事にした。
へいわ文具の最初の事件は、営業部のOL、
その後、へいわ文具でセクハラやパワハラやサービス残業やサービス出勤が横行していた事がわかるが、それと同時に、上司の佐川さんの車がトラックに突っ込んで運転していた佐川さんが死亡。次は先輩の黒根さんが心筋梗塞で死亡。もっと上の上司が自宅でいきなり割腹自殺。同僚の斎川さんが投身自殺を図り、これは一命をとりとめたが、植物状態となっている。
「確かに、呪いとかいう噂が出ても不思議じゃないな」
資料を読むだけでもそう思う。
そして会社へ行くと、暗くてピリピリした雰囲気と笑顔も覇気もない社員達に、こちらまで憂鬱になってしまいそうになる。
投身自殺未遂の現場に行くと、枯れた花束と、恨みと悲しみと恐れの念が残っていた。
「花束も、おざなりなんだな」
カサカサに乾いた花弁が物悲しい。
「誰も他の人を悼む余裕もないんだろうねえ」
僕達は、割腹自殺をした上司の家へ行った。
現場は自宅で、家族は引っ越してしまったらしい。
現場となったキッチンは清掃がなされており、そんな惨劇の痕は見当たらない。
それでも、屋上と同じ、恨みと悲しみと恐れの念が残っていた。
「これで確信が持てたな」
「何者かが自殺をさせたねえ」
普通に考えれば、渡良瀬光里さんだろう。
念のためにほかも回っておこうと、佐川さんの事故現場と黒根さんが発作を起こした自宅アパートへも回ってみたが、どちらも、同じ念が残っていた。
虐げられて自殺した人が恨みを晴らして回っているのだろうか。
それは、死んでしまう原因も悲しいが、今の状態も、これからしなくてはいけないことも、悲しいと思った。
「今はどこにいるんだろうな」
「会社には、憑いている人はいなかったもんねえ」
「自宅に行ってみるか」
僕達は、渡良瀬家へと向かった。
だが、渡良瀬さんが兄妹で住んでいたアパートで待ってみたが、優介さんは姿を見せる事がなかったし、光里さんの気配も無かった。
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