第902話 チビッ子編 👻 なにかいる(1)真夜中の怪談

 夏休みに入り、子供達はやはり、ウキウキとしている。

 夜更かしはダメだと言うところだが、まあ、たまにはそれもわかる。自分にも、覚えがあるからだ。

 しかし、これにも覚えがある。

「怪談かあ。見たいのか?」

 僕は、ワクワクとした顔付きをしている凛を見た。

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「ん!ん!」

 凜は張り切って、頷いた。

「累も優維もかねえ?」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

「見たい!」

「ボクも!」

 優維ちゃんと累も、しっかりと頷く。

「敬もか?」

 兄が一応確認する。

 御みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

「見たい!だめ?明日のラジオ体操はちゃんと起きるから」

 それで、美里が凜に確認するように言う。

「怪談って怖いのよ?大丈夫?」

 御崎美里みさきみさと、旧姓及び芸名、霜月美里しもつきみさと。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。

「大丈夫!」

 千穂さんも言う。

「泣いても知らないわよ?」

 町田千穂まちだちほ、交通課の元警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。

「泣かないもん!」

「ボクも、平気!」

「まあ、夏の夜中にテレビで怪談見るのって、確かに毎年楽しみにしてたものね。

 仕方ないんじゃない?」

 冴子姉が苦笑する。

 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。

「わかった。今夜は得別だぞ」

 兄が言って、子供達は喜んだ。

 それを見ながら、僕は昔を思い出していた。

 あれは小学校1年の夏休み。人生で初めて、夜中にテレビでやっていた怪談を見た日の夜の事を。






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