第573話 百万両の夜景(3)青年将校と幽霊ハイヤー

 フワフワの生クリームをこれでもかと乗せ、マンゴーなどをゴロゴロと添えたパンケーキに、初音は目を見張って驚きながらも、大喜びをした。

「異国の御姫様が召し上がるようなケーキですのね!これは何?瓜?」

「メロンよ」

「こちらは柿でしょうか」

「マンゴーよ」

 驚くのは、美里と千穂も同じだった。

 それでもワイワイと言いながら楽しく食べ、お喋りをしていると、仲良くなって来る。

「へえ。初音ちゃん、もうすぐ結婚なの。お相手は?」

「はい。三田園静みたぞのしずか様、三田園家の御三男様ですわ。今は陸軍にお勤めになられていますのよ」

 美里と千穂は、「三田園家って、有名なの?」「陸軍?」と内心で首を傾げながらも、ちょっとズレた感じの初音の事だからと、「陸上自衛隊に努める三田園さん」と置き換えていた。

「随分早い結婚なのね」

「そうでしょうか?私ももうじき19になりますので」

「?」

「静様とは2つの時に許嫁同志になりましたの」

「2歳!?」

「お会いしたのはこれまで4度ですけれど、お優しい、立派な方ですわ」

「へ、へえ。それは良かったわね。安心したわ」

 美里と千穂は、箱入りにも程がある、と思いながらも、こんな家が未だにあったのかと驚愕していた。

「今度、ガス燈を見に連れて行って下さると仰っていたのに、戦地に行かれて……。

 ですから、先に私が綺麗な所を探して、お連れしたいと思いますの」

「ええっと、夜景の綺麗な所って事でいいのかしら?」

 チラッと美里は千穂を見た。

「たぶん」

 千穂は頷いた。

「だったら、良い所があるわよ。百万ドルの夜景とは言わないけど、とびきりのお勧めデートスポット。タクシーですぐよ」

「百万、ドル?でございますか?是非、そこに行ってみたいですわ!」

「決まりね」

 3人はにこにこと話をしながら、パンケーキを楽しんだ。


「随分と、移動するな。何かを探しているのか?」

「陸軍の建物――まさか、首相を殺しに!?」

「2.26か5.15?クーデターの前か後か、どっちに死んだ人だ?」

 僕と直は、とにかく早く見つけなければという事で、意見が一致した。

 その時、直が、また声を上げた。

「へ?幽霊ハイヤー?」

「何だ、それは?」

「新たな噂だよ。透けた車が走りまわってるみたいだねえ」

「何なんだ、いっぺんに、もう」

 僕と直は、溜め息をついた。放って置けば、事故の元だ。

「探さなければいけないものが、次から次へと……。ああ、面倒臭い」

 忙しい夜になりそうだった。




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