第560話 一家惨殺(3)汝、恨むなかれ
徳川さんから捜査員に連絡が行き、調べた結果、事件発生当時、あの弁護士が研修で行っていた法律事務所と添川さんが社長を勤めるウェブデザイン会社の事務所は同じ雑居ビルに入っており、法律事務所の弁護士、事務員がよく昼食の出前を頼んでいた中華店のバイトに、
添川さんの所では中華の出前は頼む事が無かったらしいので、余り重きを置かれなかったのだろうか。
『そういう事らしいよ。そっちに捜査員を派遣するとか言ってたから、犯人なら、移送まで手伝って欲しそうだったら手伝ってやってくれるかな』
「わかりました」
徳川さんの電話を切って、僕と直は、食事にする。
地鶏の陶板焼き、すき鍋、カツオの叩き、天然鯰の刺身など、郷土の名物が並んでいた。
「鯰?え、ナマズって地震の前に暴れる、あの?」
「そう言えば前にテレビで言ってたねえ。ウナギが高くなった時。白身で美味しくて養殖もできるから、ウナギの代わりにかば焼きにして丼にって」
「へえ。初めて食べるなあ」
「刺身かあ。どんな感じなんだろうねえ」
揃っていただきますをして、食べる。
「うん。白身で淡泊。もっちりしてて、ちょっとフグに似てるかな」
「確かに。かば焼きならウナギの代わりに十分だねえ」
デザートの伊予柑まで食べ終えて、部屋に戻った。
「添川さん達に話を聞きたいな。でも、宅間に近寄れないからなあ」
何か方法はないものか。
考えてみても、名案は浮かんでこない。
「仕方ない。また病院に明日行ってみよう」
「弁護士がいないかもしれないしねえ」
僕達は、温泉に入って、寝る事にした。
翌日早朝、捜査員2名が到着し、地元警察署に挨拶をしてから僕達と一緒に病院に向かった。
今までの事を説明し、榊弁護士がいるかも知れない事を告げておく。
「体調不良って」
捜査員は舌打ちをした。
「ダメと言われたら、取り敢えず、僕達は陰陽課で、憑いている霊に用があるだけだからと言ってみます。
実際、10年も大人しく憑いたままというのがどうも……」
「そっちから、見落とした何かが見つかるかも知れませんしね。お願いします」
病室の前に行き、ドアの横で見張りをしている警察官に訊いてみる。
「榊弁護士は来ていますか」
「はい。泊まり込んでます」
捜査員は嘆息した。
「そんなに仲がよかったんですかねえ」
「見習い同志という所ですか。顔を合わせば話はしていたようですよ」
「こっちで倒れてすぐに電話をかけて、電話が来たら即行くぐらい?」
「……弁護士の方は、金ですかね。こっちの刑事に訊いたら、あんまり儲かってないみたいで」
「共犯とかではないのかな」
「……調べてみないと、わかりませんよ」
僕と直は、気持ちを切り替えて、ドアをノックした。
「はい。
またか。取り調べはダメですって――」
目を吊り上げる榊弁護士に、違う違うと手を振る。
「いえ、僕達は昨日も言いましたが、陰陽課なんですよ。用があるのは、宅間さんに憑いている4人の霊の方々の方です」
榊弁護士は怪訝そうに眉をしかめ、ベッドの宅間は、表情を硬くして掛け布団を握った。
「4人の霊?」
「はい」
「憑いて?」
「はい」
榊弁護士は目を細めたりしていたが、それで見えるわけはない。視力検査ではないのだ。
「病気や不調が、それから来ている事はよくある話ですから」
「それに、影響が他の患者さんに出たら困りますからねえ」
「弁護士さんなら、その場合の賠償金とか、想像できるでしょう?」
青い顔になった榊弁護士に、念を押しておく。
「まあ、そういう事なら……。
とは言え、本人に訊いてみないと」
「霊にという事ですかねえ?」
「え、あ、うう……」
混乱し切っている榊弁護士の横をすり抜けて、宅間さんを挟んで添川さん一家と向かい合う。
「本当にいるんですか?」
榊弁護士が疑わしそうに言うので、
「見えるようにした方がいいですかねえ」
と直が言い、宅間さんにも視線をやる。
「はい」
硬い顔で宅間さんが頷いたのを見て、榊弁護士が
「では、見えるようにして下さい」
と言い、直は可視化の札をきった。
途端に、ベッドサイドに4人の霊が姿を現す。
「うわあっ!?」
榊弁護士が声を上げ、宅間さんはベッドの端に寄れるだけ寄った。
「こんにちは。僕は御崎と申します」
「こんにちはぁ。ボクは、町田と申しますねえ」
「お名前をお伺いできますか」
父親が、頭、顔、胸、腹、方々から血を流したままの姿で口を開いた。
「添川元也です」
自己紹介が続く。
「妻の昌子です」
首に深々とした傷が口を開け、胸にも刃物で刺された傷がある。
「添川美夏、小学6年生です!」
「添川一茂、うさぎ組です!好きなものはハンバーグです!」
子供2人は元気よく言った。2人は、背中に刺し傷が多い。
「東京で10年前の夏休みの終わりに亡くなった、添川さん一家ですか」
「はい。間違いなくそうです」
添川夫妻が静かに頷く。
「色々とお伺いしたい事があります。よろしいでしょうか」
「はい。時間なら、いくらでもありますから」
元也さんが言って、添川さん一家は揃って宅間さんを見た。
背後で音がしたから振り返ったら、榊弁護士が倒れ込んでいた。
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