第483話 刑事の執念(1)20年の間隙
亜美は、スーパーの近くにある小さい公園で、ブランコに乗っていた。
時間帯によるものか、今はほかに誰もいない。競争しなくても遊具が乗り放題なので最初は嬉しいと思ったが、1人だとつまらなくなって来た。
「お母さん、まだかなあ」
首を伸ばしてスーパーの方を見るが、来る様子はない。
と、お巡りさんが前に立った。
「どうしたの。1人?」
コクンと頷く。
「お母さんが買い物中で、ここで待ってるの」
「そうか。遅いね。お巡りさんと、迎えに行こうか」
知らない人について行っちゃダメとは言われたが、お巡りさんなら大丈夫だろう。そう思ったので、
「うん」
と言って、お巡りさんの差し出す赤い風船をもらい、手をつないだ。
4歳の亜美には、本物の警官の制服と似ているニセものの服との違いも、その行動の不自然さも、わからなかった……。
4歳女児連れ去り事件。その事件は、ママ友のつながりから世間に広がり、あっという間にマスコミにも知られる事になった。
「拡散が早いなあ」
「この頃は、マスコミよりもこっちが早かったりするからねえ」
窓からちょっと外を覗くと、マスコミがひしめいているのが見える。
「世間の注目度が高いから、少しのミスでも叩かれるぞ。気を引き締めて行かんとな」
大池さんが言い、僕と直は「はい」と返事した。
この事件には課の垣根を超えて全署員で当たる事になっている。その為、署の幹部、強行犯係、各係の代表者が講堂に集まって、全体会議を行う事になっていた。
「そろそろか」
桂さんが言った時、署長が姿を見せ、全員、席で起立してそれを迎えた。
署長と幹部が上席に着き、シンと黙って直立不動で署員らが立つ。
「全員、礼!……休め!」
それで全員、椅子に座る。
「ただ今より、緊急の全体会議を実施いたします。まずは署長──」
警務課長代理が言った時、ガラリとドアが開いて、全員の視線がそちらに向いた。痩せた中年の男がいた。
「高峰さん!」
益田さんが言って、彼はちょっと片手を上げた。
「
桂さんが、小声で教えてくれた。
「強行犯係に?」
「はい。高峰さんが抜けたので、五日市が入ったんですよ」
「へえ。ベテランかあ」
そんなやり取りの間に、高峰さんは上席の前に歩いて行った。
「高峰巡査部長。入院中では?」
刑事課課長が訊くのに、高峰さんは肩を竦めた。
「こんな事件の話を聞いちゃ、寝てられませんや。復帰、します」
「高峰……しかし……」
「同じなんですよ。20年前の引きずったまんまのヤマと。これをどうにかして、ヤツを挙げないと。俺の警察官としての、どうしてもつけなくちゃいけない区切りなんですよ」
僕は、緊張する思いで高峰さんを見ていた。
署長達が何と言うか、皆、固唾を呑んで見ている。
「体は大丈夫なのか」
「どうせお迎えを待つだけですよ。動けます。お願いします。やらせて下さい」
署長達は目で相談し合い、
「わかった。ただし、無理だけはするなよ」
と結論を出した。
ニセの警察官の制服を着た男が赤い風船を手に子供に近付き、風船を渡して、子供と手をつないで去る。その様子が、近くの防犯カメラに残っていた。
「20年前にもこれと同じ犯行が行われた。当時の被害者は、
当時、ホシじゃないかと怪しんだやつはいた。だが、証拠が出て来ないまま手も足も出ずだ」
高峰さんはそう言って、シートにもたれた。
僕と直と高峰さんで組む事になったのだ。
「20年。幸子ちゃんも見つけてやれねえままだしなあ。何とか見つけて、やつに手錠をかけたい」
静かだが、強い闘志を感じる。
「高峰さん、やりましょう」
「幸子ちゃんも、今回の被害者の
「よろしく頼むぜ、係長さんよ」
高峰さんは、笑った。
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