第484話 刑事の執念(2)容疑者I
色んな仕事を割り振られた中、僕達は前の事件の時に容疑者として浮上した人物を調べる事となった。
「そもそも、どうしてその
運転しながら訊く。
「当時今里は高校中退の引きこもりで、幼女の出て来るアニメとマンガばかり追いかけてた。平成元年の宮崎事件以降、世間はアニメや漫画に厳しかったけどな。こいつは本当におかしかった。部屋の窓から、近所の幼稚園のプールを覗いて写真を撮っていたり、子供のパンツを洗濯して干しておいたら無くなっていた、なんて家もあった。
調べたら、大量の幼児の写真は出て来たが、幸子ちゃんにつながるものはなかった」
高峰さんは言って、悔しそうに溜め息をついた。
「監禁場所が別なんですかねえ」
「誘拐の目的は何だったんだろう」
言っているうちに、今里さんの家に着く。
郊外の一件家で、庭はそこそこ広く、建物は古い2階建てだ。
「親は代々地主の資産家でな。父親は当時は大手銀行の行員だったが、もう、定年だな。母親は専業主婦だった。兄弟はなし」
門前に車を止めてチャイムを鳴らそうとする僕達を、見つけた近所の人が、ヒソヒソと何か言っている。
「直、聞いてくれるか」
「OK」
小声で言うと、直は答えて、にこにこしながらその主婦グループに近付いて行った。僕と高峰さんは、少し離れた所で聞いている。
「すみませぇん。この今里さんって、今も3人暮らしなんですかねえ」
「御主人は今年の夏、クモ膜下出血で亡くなったわよ。奥さんは去年、風邪をこじらせて肺炎でね」
「だから今は1人よ。
また何かしたの?」
「いえぇ、それはまだ」
「怖いわよ、小さい子のいる家はね」
「何か、あったんですかねえ」
「じーっと小さい子を思いつめたような目で見つめてたらしいわよ」
「いやだ、いやだ、怖いわあ」
「出かけたりしてるようですかねえ」
「買い物は車で、大体、インターの所のスーパーとか、隣町のホームセンターの袋も見かけるわねえ。あとは、インターネットね。ダンボール箱がよくゴミで出るのよね」
大体そんな感じで、直は切り上げて来た。
「やるな」
「でしょう」
「えへへ。照れるねえ」
それで今度こそ、チャイムを鳴らした。
ややあって、ドアが開く。
36歳だというが、随分と老けて見えた。表情も暗い。身長、体格は、防犯カメラの映像のニセ警官と似ているように思えた。
高峰さんは一瞬声を失って凝視し、それから、大きく息を吐いた。
「よう、ひさしぶりですな」
高峰さんは、目は少しも笑わずに笑顔を浮かべた。
「あんた、確か、新米刑事」
今里さんが言う。
「今はおかげさまで、立派なベテランだよ」
そう。今新米刑事なのは、僕と直だ。
「ちょっと話を聞きてえんだがな」
「話す事はないな。20年前に犯人扱いされて、迷惑したんだから。帰ってくれ」
ドアを閉ざそうとするのを、高峰さんが押さえる。
「そう邪険にするなよぉ。なあ」
言われて僕と直は、それから目を離した。
「あ、はい。是非お願いします」
「なんですか?何を見てるんですか」
今里さんが、怪訝な顔をする。今里さんに憑いている女の子の霊なんだが……言っていいのかな。
迷うが、今里さんはもう、奥へ体を向けかけている。
「帰って――うっ」
そして、急に胸を押さえてしゃがみ込んだ。
「え、どうした、おい!?
救急車だ!」
直が救急車を呼ぶ間、僕は今里さんを横にして、そばにいた。女の子の霊は、無表情で今里さんを見ていた。
「お名前は何かな」
彼女は顔を上げて、ちょっと首を傾けた。20年間呼ばれることが無く、忘れてしまったのだろうか。
「幸子ちゃん、かな」
反対に首を傾ける。
「これまでも、こんな風になってた?」
こっくりと頷く。まあ、この子が何かしたわけでも無さそうだ。
「だめだ。ここにはいない」
奥を覗きに言っていた高峰さんが、戻って来る。そして、今里さんに訊く。
「おい。連れて来た女の子はどこにやった」
「高峰さん、だめです。無理です」
「今のうちに喋ってもらわないと困るだろう。もし死なれたら」
「発作でそれどころじゃありませんから」
「クソッ」
高峰さんが自分の頭をペシンと叩いた時、救急車のサイレンの音が聞こえて来た。
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