第479話 おにぎりじぞう(1)きれいな葉っぱとどんぐり

 夕食後、リビングに移ってテレビを点けると、紅葉スポットの観光案内をしていた。

「紅葉か」

 御崎みさき れん。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師であり、新人警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「今年ももうそんな時期か」

 御崎みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

「あ!」

 甥のけいが宝箱を開け、その姿勢で固まった。

「どうしたの、敬」

 冴子姉が、箱を覗き込む。

 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。

「あらあ」

「ん?」

 僕と兄も、覗き込んだ。

 それは敬が、きれいな石や葉っぱ、花びらを集めていた箱だが、紅葉の葉っぱが折れ曲がり、破れていた。

「今日ね、公園で見つけたの。きれいだから、お父さんと怜にも見せたかったの」

 敬が、しょんぼりとして言う。

「そうか。ありがとうな、敬」

「ありがとう、敬。

 ああ。きれいな色だな、兄ちゃん」

「本当だな。敬、いいものを見付けたな」

 敬は途端に笑顔になって、あそこの角を曲がってどうこうしたところにあると一生懸命説明する。

「そうだ。今度の休みの日、お弁当持って出かけようか。きれいな葉っぱやどんぐりがあるぞ。多分」

 言うと、敬がぱああっと顔を輝かせた。

「おやすみいつ?」

「あと2回寝た日」

「行く!」

「そうか。じゃあ、晴れるように、てるてる坊主を作るか」

 兄が言うと、

「作る!」

と敬は張り切って、何がいるのかとうろうろし始める。

「じゃあ、お母さんが材料を揃えるから、明日一緒に作ろうね、敬」

「うん!」

「じゃあ、今日はもう寝ような」

「はあい。おやすみなさい!」

 敬は、早く寝たら早く次の日になるとでも言うかの如く、いそいそと部屋に走って行く。

「いいのか、折角の休みに」

 兄が言うのに、僕は頷く。

「勿論。楽しみだよ」

「そうだな。お互いに、事件が入らない事を祈ろう」

 僕と兄は小さく笑って、カレンダーに丸を付けた。




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