第467話 新任警部補・御崎 怜(3)三文芝居

 僕達は急遽、ミケーレの言うクラブへ行った。

「クラブか。カラオケとかあるのか」

「黒井さん、クラブが違う」

 下井さんが黒井さんに突っ込んでいるのを横目に、伺い見る。

 玄関にはガタイのいい男がガードマンよろしく立っていた。

「俺達のこの服装じゃ、警察ってばればれですね」

 五日市さんが言う。

「俺はOKだぜ」

 革ジャンの黒井が威張る。

「でも、年齢とかがなあ」

 益田が言って、大島が笑いをこらえる。

「ううーん。スーツの上着を脱いでネクタイを外したら益田さんは行けるんじゃないですか。そのシャツだと。あとは、僕も襟立てて行けば何とかなるでしょうし、黒井さんはどこかのワンマン社長みたいな顔で」

「係長は外にいて下さい」

 桂さんが言うが、それは無理だ。

「相手は外国人らしいし、何語かはっきりしません。僕が行きます。

 携帯電話を通話状態にして行きますから、突入、よろしくお願いします」

 桂さんはしばらく迷っていたが、黒井さんが、

「心配するな。ケガはさせん」

と言うので、決めたらしい。

「わかりました。でも、いいですか。くれぐれも危ない事は避けて下さいよ」

と念を押すのは忘れなかった。

 そして、僕と黒井さんと益田さんは、クラブに向かって行った。

「ほお。この頃の若いもんがいうクラブってのは、これか」

 黒井さんのセリフで三文芝居がスタートした。

「はい、社長」

「ディスコとは違うのか?」

「ディスコ?」

 3人で、それは何、という感じで三竦みになる。それを見たガードマンは、多少違和感があるのはサラリーマンが上司に連れて行けと言われて急遽来ることになった為かと、勝手に脳内で物語を作り上げたようだ。

 これも立派な心理戦だ。

「行きましょう」

「おう」

 ガードマンが肩を竦めて苦笑する前を、堂々と入店した。

「クラブって初めてだ」

「係長、本当に今どきの若者か?」

 黒井さんに心配され、益田さんに失笑され、狭い通路を奥に進む。

 奥の広い所に出ると、もの凄い音量の音楽と人がいた。端にはカウンターとテーブルセットが幾つかあり、外人数人が集まるテーブルがあった。

 隣のテーブルが空いていたので、そこに座る。

 壁のせいか、テーブルは話ができる程度に静かだ。

 彼らは大して声も潜めずに、無防備に話をしていた。ベラルーシ語をわかる人間はそういないと安心しているのだろうか。

 仕事の話をするように、こちらも話す。

「ベラルーシ語ですね」

「ベラルーシ?」

「ロシアの隣です」

 訊いておいて、益田さんは舌打ちをした。

「『あの運び屋は俺達の事に気付いてもいないし、足がつきそうになったら切ればすむ』『日本人とのハーフの山田太郎だと言ったら信用したからな』『連絡用の携帯も足の付かないものだしな』」

 彼らの言葉を通訳していく。

 そこへ、若い男が近付いて行った。するとお得意様なのか、外人の一人がポケットから飴玉を取り出して、男の差し出す折ったお札と交換する。

「飴玉1個と数千円を交換して、そいつはトイレに行きます。あ、益田さんがそっちは行きます」

 男を追って、益田さんが立つ。

「飴玉に偽装したヤクだな。という事はエクスタシーか」

 黒井さんが声を潜めて言った。飴玉の売り買いは黒井さんのスマホで撮影している。

 それから5分もすると、桂さんが応援を引き連れて入店して来、

「警察です。全員、動かないで下さい」

と言い、外人達はすうっと席を立とうとした。

「動かないで下さい」

 ベラルーシ語でまくしたてて誤魔化そうとするのでベラルーシ語でそう言ったら、表情を消して、懐から拳銃を出した。

「係長!!」

 桂さんが叫ぶが、その時には、僕は特殊警棒を引き抜いて制圧にかかり、拳銃を奪い、腕を背中に捩じり上げていた。

 すると、桂さんと来たスーツの人達が彼らのポケットから飴玉を見つけ出し、包装をはぎ、

「間違いないです」

と確認すると、彼らは大人しく手錠をかけられていった。

 トイレの方からは、青い顔でうなだれる男を連れて、益田さんが戻って来る。

「かーかーりーちょーおー!」

 桂さんが怒っているが、誤魔化そう。

「何を運んでいるか知らない筈だと言っていたから、そうミケーレに伝えに行こう。今すぐに!」

「……仕方ないですね」

 桂さんが嘆息した時、スーツの1人が近寄って来た。

「御崎警部補ですね。銃器薬物対策係の真下です。事情は桂巡査部長から伺いましたが、戻ってから改めてお話をさせて下さい」

「はい、わかりました」

 僕達は、さっさとその場を後にして、レストランに戻った。


 ミケーレに呼びかける。

「おおい、ミケーレ!」

「お、どうだった!?」

「今、雇い主を検挙して来ました。やつらは、ミケーレが何も知らないと言っていたし、そのアルバイトに関しては、ちゃんと警察で説明したら大丈夫です。だから、もう出て来なさい」

 ミケーレはオーナーシェフ夫人と何やらゴニョゴニョ話し、握手してからハグをし、一緒に出て来た。

「おう、マリエ!」

「知らない」

 斉木さんは怒ったままで、ミケーレはガックリと落ち込んだまま、五日市さんと大島さんに挟まれてパトカーに乗せられた。

 そして、異変は警察署で起こった。





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