第444話 心霊特番・神奈川(1)真夜中の遊園地

 昼間はたくさんの人がいる遊園地も、閉園後はすっかり様子が変わり、それだけでどうにも薄気味悪い。

「はい。ここは現在もたくさんの人でにぎわう、とある遊園地です。ここにはいくつかおかしな噂があるので、それを検証したいと思います」

 高田さんが、カメラに向かって言う。

「遊園地に来たら、まずは?」

「フランクフルト!」

「まず腹ごしらえか、お前は」

「そういうそっちは」

「トイレ」

「なんでやねん」

 ミトングローブ左手右手が言い、

「ジェットコースターでしょ。

 美里様は何が好き?」

とえりなさんが美里に訊く。

 美里は考え、

「幼稚園前に来たきりだから、あんまり覚えてないけど……観覧車から見た景色が良かった気がするわね」

と言うと、高田さんが頷いた。

「はい。では美里様は観覧車の噂の検証に決まりという事で。

 ミトングローブ左手右手は、野外ステージとかでこういう所には?」

「行く、行く」

「夏はプールサイドで」

「では、野外ステージの噂はミトングローブ左手右手で。

 で、残りの1つはえりなちゃんに行って貰います」

 えりなさんが、狼狽える。

「残りの1つってどこですか、え、怖い?1人?高田さんは?」

「観覧車がカップルでの検証なので、僕が行きます。えりなちゃんの担当はズバリ、お化け屋敷!」

「嫌あああ!」

 台本通りにえりなさんが叫んで、カットとなる。

「お化け屋敷、マジで怖いんですけど」

「ははは。大丈夫、大丈夫」

「だったら代わって下さい」

「それは無理。えりなちゃん、漫談できる?」

「う……」

「はい、お化け屋敷行きまあす」

 スタッフが言って、皆でゾロゾロとお化け屋敷へと向かうのだった。

「遊園地か。もうちょっとしたらけいも連れて行こうかな。直も行こうよ」

「いいねえ」

「美里もどう?」

「行きたい!」

 話しながら移動して、お化け屋敷の前に行く。

 えりなさんが1人で入って行くのだが、それを、館内のスタッフ用のモニターとえりなさんが持つハンディカメラで外から観察するというものだ。

 びびりながらえりなさんが入って行くと、モニター画面を皆で見る。

 惨劇のあった遊郭という設定らしく、壁や障子に血しぶきが飛び、時折、頭や刀が飛んで来る仕掛けだ。

 明るい所で見ると安っぽい作り物なのだろうが、薄暗い中で見ると、ちゃんと怖い。おまけに通路が絶妙に狭くて、不安感を煽る。

「ここはどういう噂があるんですか?」

 ミトングローブの片方が訊くと、高田さんが答える。

「ひやっとしたり、何かに足を触られたりするらしいですよ」

 皆がこっちを見るので、僕と直はパッとそっぽを向く。いるともいないとも、言ってはいけないのだ。

 と、画面の向こうで、えりなさんが叫びながら走り出した。

「ああ……。暗いのに、走ったらそっちの方が危ないな」

「そうだねえ。転ばないといいけどねえ」

「ただいたずらしてるだけで、害意は無いのに」

「いるんだ!?」

 皆が声を揃えて言った時、えりなさんが走って出て来た。

「何か、足、足!」

「落ち着いて下さい。いたずらしただけですから」

 言ったら、えりなさんが掴みかかって来た。

「え、いたの!?本物!?足を触って来たのよ!?」

「ははは」

 皆が笑うのに、えりなさんは怨嗟の声を上げた。

「ううう。皆の噂も本物でありますように……」


 野外ステージに着くと、ミトングローブ左手右手はステージに立ち、他の皆は外で待つ。

「ここの噂は?」

「練習していると、客席に誰もいないのに拍手が起こるそうですよ」

「ふうん」

 美里と高田さんが言って、皆でモニター越しにミトングローブ左手右手を見守る。

「はい、どうもー」

「ミトングローブ左手右手でえす」

 軽快にネタを披露し、ステージを降りて来た2人だったが、どうも顔が暗い。

「マイクで拾えないくらいの音で拍手があったの?」

 高田さんが言って皆が注目するが、2人はがっくりと項垂れながら言った。

「いえ、別に」

「営業に行って、お客さんがほとんどいなかった時を思い出して……」

「心が折れる……」

「もし本当にステージに上がって、客席がこういう風にとか想像したら、マジで怖い」

「ああ……別の意味で怖かったんだね。うん。お疲れ様」

 高田さんが優しく労った。


 観覧車の噂。4番の観覧車にカップルで乗っていると、ぐるりと回ってもうすぐ終わりという位置に来た時、痴話げんかの末に飛び降りて死んだという女性が上から落ちて来るというものだ。

「では、行ってきます」

「夜景くらいは見えるのかしらね」

 高田さんと美里が4番と書かれたメルヘンな観覧車に乗り込んで、それを皆で見送る。

 中の様子は、ハンディカメラから映っていた。

「夜中だと、ほとんど何も見えないのね」

「夕方がいいらしいですよ」

 そんな余裕のある会話を2人は交わしている。

「この噂は本当だと思いますか、美里様は」

「どうかしら。そんな事故があったら、未だにこの遊具があるのかしら」

「でも、観覧車は遊園地には無くてはならないものですからねえ」

「確かに、それもそうね」

 僕と直はなるべく真剣な顔で画面を見ていたが、何事もなく観覧車は一周した。

「これは、ガセでしたね。

 という事で、本当の噂はお化け屋敷だけ……いるの?ねえ、いるの?」

 僕と直の視線の先を見ようとしながら、高田さんが訊く。

「こっちを、興味津々に見ていますよ」

「それとさっきは、迷子の女の子がいたねえ」

「2人!?」

 全員が、キュッと寄り集まって来た。






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