第443話 心霊特番・滋賀(2)合戦
暗い砂浜に、冷たい風が吹く。そこで、僕達は身を潜めて、それを見ていた。
学生らしき2グループの学生が睨み合う。各々20名程か。その先頭で睨み合うのは、ミトングローブの2人である。
「ねえ」
コソッと美里が言う。
「これ、本当に武将?」
高田さんも、妙な顔をしていた。
「いや、武将じゃないな」
僕と直は、来た時からそれが視えていた。
「典型的な、ヤンキーだねえ」
甲田プロデューサーが、ガックリと首を垂れた。
「え、武将じゃないの?古戦場跡が多いから、てっきり……」
えりなさんが言い訳する。
数字に結び付くかという目論見が外れてダメージの大きい甲田プロデューサーは放っておいて、僕と直は、目を戻した。
「祓わないといけないのは同じだし」
「そうだねえ」
「戦国武将の歴史ロマンが……」
甲田プロデューサーの呟きに、美里が肩を竦めた。
右手と左手は、腕を組んで向かい合っていた。
「西高にでかい面はさせねえ」
「東高がキャンキャン吠えやがって」
そして、2人がおもむろに近付いて、両手を掴み合い、
「があああ!」
「うおおおおお!」
と奇声を上げるのをきっかけに、乱闘が始まった。
勢いのまま琵琶湖に突っ込んで行く者もいれば、組み合っている者もいる。
そんな彼らに、水面を滑るように近付いて来た落ち武者や水死した人の霊が近付き、興奮のまま憑りつこうとする。
「夜中に近所迷惑だろうが!」
「いつまでも乱闘してるのはどうかねえ」
僕と直が踊り込み、直の札で、全ての幽霊が見えるようになった。同時に僕は、右手と左手に憑いているのを剥がす。
「ん?あれ?」
「え?わ、ぎゃああああ!」
右手と左手が叫び声を上げ、それを皮切りに学生たちが泣き叫び、阿鼻叫喚の渦と化した。
その中で、幽霊群は憑りつこうと接近する。
「もう成仏しよう!はい!」
問答無用とばかりにそれらを祓い、一掃する。
まだ性懲りもなく組み合うやつらもいたが、直が札で巻き上げた水を降らし、終わらせる。
「頭は冷えたかねえ」
学生達は、寒さか恐怖かでブルブルと震えていた。
そんな彼らの間に、いかにも「事故死しました」という風体の特攻服と呼ばれるものを着た暴走族風の霊が、ちらほらと立っている。
「説明してもらいましょうか」
「う、なんじゃあ、邪魔しやがって!」
「やる気かあ!?」
なけなしの虚勢を張るのが数人いる。最後まで殴り合っていた数人だ。
「
彼らはそれで青い顔になって、
「いえ」
「別に」
と言いながら座って行った。
「で、どういうわけだ」
右手と左手に憑いていた2人に訊くと、2人は項垂れながら口を開いた。
「2つの族は、ずっと張り合ってて」
「接触事故でこうなって、決着がつかないままだったから」
「いい加減、なあ」
「うん。決着をつけて成仏しようかと」
直がそれに、溜め息をつく。
「それで、後輩達を巻き込んで、ミトングローブ右手左手に憑りついて、乱闘しようと思ったのかねえ」
「2人でやり合えばいいだろ?」
僕も、嘆息する。
霊達は、気まずそうに頭を掻いていた。
「後輩を巻き込むな」
「無関係の人は論外だしねえ」
「大体、無関係のミトングローブ左手右手に、よく従おうとしたな」
言うと、彼らはキョトンとしながら、
「いや、現リーダーがそう言ったから……なあ」
と口々に言い、現リーダーは、
「伝説の元リーダーがそうしろって、言いに出て来たから」
と言い、皆の視線が、幽霊の元リーダーに向く。
「え、あ、いや……『王者』ってここに来るやつらが言ってたし」
「ちょうどいいかなあって……なあ」
霊達が目をそらす。
お笑いグランプリの事を、釣り客が話すのを聞いたのだろう。
「はあ。成仏しろ、仲良くな」
「はい」
浄力を浴び、彼らは光になって消えて行った。
落ち込む甲田プロデューサーをよそに、僕達は話していた。
「大昔の暴走族か。今どきあんな感じの、いないもんな」
高田さんが苦笑する。特攻服にリーゼント。漫画でしか出て来ない風体だ。
「戦国武将の合戦かと思いきや、なんというか、しょぼいわね」
美里が酷評すると、甲田プロデューサーが益々落ち込む。
「はああ。ただただ面倒臭い案件だった」
「だねえ」
僕達は気の抜けた笑みを浮かべたのだった。
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