第442話 心霊特番・滋賀(1)古戦場跡がいっぱい

 琵琶湖。日本一の大きさを誇るだけあって、湖と言っても、場所によっては対岸が見えず、海に見える。

「流石、大きいねえ」

「ああ。智史はここで育ったんだなあ」

 僕達はホテルの窓から湖面を眺めていた。

 撮影隊は、滋賀県に来ていた。琵琶湖とその周囲で撮影を行う予定で、今晩、古戦場跡をはしごする事になっている。琵琶湖周辺は、奈良時代から戦国時代と、本当に古戦場跡が多いのだ。

 夕方ロビーに集合という事だったので、ここに皆集まって来ていた。

「古戦場ね。落ち武者とかがいるのかしら」

 美里が言う。

「事故で琵琶湖に沈んだ船の犠牲者も、湖底に眠っているとかいうねえ」

「湧き水でゆらゆらとこんな風に揺れながら立っているとか地元では言ってるって、智史が言ってたな」

 ゾンビのように、両手を前に上げて見せる。

 美里は嫌そうに顔をしかめた。

「遅いなあ。どうしたんだろ」

 高田さんが、外を窺いながら言った。

「ミトングローブ、いないみたいなんだよ。散歩って出て行ったきりとか」

「えりなちゃんも一緒みたいですよ」

 スタッフの一人が、カウンターから戻って来ながら言う。

「どうしたんだろう。時間に遅れるようなタイプじゃないのに」

 皆、心配そうにソワソワとし出す。

「意外と時間とかは守るけど、見た目通りおっちょこちょいなところがあるわよね」

 美里がズバリと言う。

「うっ。庇えない……」

 高田さんが苦笑した時、泣きそうな顔で、えりなさんが外から駈け込んで来た。

「大変、大変、大変ですぅ!」

「どうしたの、えりなちゃん。1人?」

 甲田プロデューサーが、えりなさんの後ろを見ながら言った。

「その件で、大変なんですって!

 右手と左手に怨霊が憑り付いて、今晩合戦だって言い出して……!」

 全員、一瞬の沈黙の後に、叫んだ。

「ええーっ!?」

「面白い!」

「面倒臭い!」


 えりなさんによると、3人で、バス釣りでもしようかと歩いていたそうだ。

 すると、黒い靄のようなものが右手と左手にまとわりつき、2人はいきなり

「今日こそ決着をつけてやる」

「そっちこそ、ほえ面をかかせてやる」

と言って睨み合ったらしい。

 えりなさんは何の冗談を言い出したのかと思っていたそうだが、2人はスタスタと歩き出し、前方の開けた所に出ると、そこには、睨み合う2グループの学生達がいたらしい。

 そして、今夜決着云々と言い出して、別方向にバイクで去ったそうだ。

「今晩か」

 どこか嬉しそうに、甲田プロデューサーが言った。

「その決闘場所に行きましょうか」

「どの戦いの、どの武将かねえ」

「ありすぎてわからないな」

 僕と直も、色々と頭に思い描く。

「テレビ的に人気のある武将がいいんだけどなあ」

「甲田さん。そう上手くはいきませんよ」

 高田さんが甲田プロデューサーに言う。

「古戦場巡りは、武将の合戦になりそうね」

 美里は、夕景に染まり始めた琵琶湖を眺めながら言った。

「ちょっと高台になっている所からも、全体を撮りたいな」

「ロケハンに行ってきます」

 スタッフが慌ただしく動くのに、僕と直は呟いた。

「テレビの人って逞しいな」

「慣れたのかもねえ」

 まあ、僕達のやる事は、どの武将が憑いていても同じだが。





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