第445話 心霊特番・神奈川(2)笑う幽霊と泣く幽霊
その幽霊は、感涙にむせびながら、高田さん、ミトングローブ左手右手と握手してもらい、
「もう2度とこの手は洗わない!」
と誓っていた。
いや、幽霊だから、そりゃあ洗わないだろう。そう思いながら、僕は訊いてみた。
「それで、名前とか死因とかを訊いてもいいですか」
「はい!
「それは……災難だったねえ」
皆も、「気の毒に」という顔だ。
「はい。ここで色々なお客さんを見て、観察する事が楽しかったんですよね。死んで幽霊になって、ここにいたのは意外でしたけど、これでまだ勉強できる、と」
「まあ、勉強は一生と言うしな」
「芸の稽古に終わりは無しかあ」
僕と直が感心していると、かわぜんは照れたように笑った。
「モノマネってどんなの?」
えりなさんがウキウキと訊き、
「え、じゃあ、ちょっとだけ。プロの前で恥ずかしいけど」
と言いながら、かわぜんはやり始めた。
「んん……こんばんわ。古畑任三郎ですぅ」
「似てる!」
「おまんら、許さんぜよ」
「おおお!スケバン刑事!」
「じゃあ、これは、これ」
少し無言で演技する。
「ああっ!寅さん!」
「正解!」
「本当によく似てるねえ」
直が感心した。
「そっくりだよ」
高田さんも感嘆している。
「ありがとうございます!」
「成程ねえ。ここで色んな人を見て、練習してたのね」
「はい」
美里ににこにこと返事をして、かわぜんはフッと寂しそうな顔をした。
「笑ってもらえるのなんて、諦めてましたから。高田さんや美里様、ミトングローブさんやえりなさんに似てると言って貰えて、嬉しいです。もう、死んでもいい」
「死んでるから」
「1つだけ気がかりがあります」
言った時、迷子の女の子が通りかかった。見えているのは僕と直とかわぜんだけだが。
年は5歳くらいか。赤いワンピースに赤い靴の子で、しくしくと泣いて、
「パパァ、ママァ」
と言っている。
「あの子は僕が死んで少しした頃にここに来た子で、回転木馬に向かっている途中に階段を踏み外して、落ちて死んでしまって。でもああやって、親を探して毎日園内を歩き回っているんですよ。
凄い父親っ子だったみたいで……。
かわいそうに。あの子を泣き止ましたいんですけど……」
かわぜんは溜め息をついた。
「その父親って、マネできるのか?」
「できますよ。でも、流石に顔は違うから」
考え込んだ僕と直に、皆が注目している。
「仮面をかぶっているという事にしたら?」
「問題は、仮面をかぶって不自然じゃないのはどういう時かだよねえ」
「あ!あの子は親と来た時、仮面舞踏会がどうとか言ってた気がする!何かのアニメの話で!それで、白い馬でお城に行くんだとか言って、白い馬にどうしても乗るって言ってましたよ」
「じゃあ――」
僕と直は皆に女の子の話をし、計画を話した。
女の子が、また、回って来た。
「パパァ、どこぉ」
「マリ!」
かわぜんが手を振る。顔には遊園地のスタッフに開けて貰って急遽買ったお面をかぶっており、物腰が、さっきまでと全然違うので別人にしか思えない。
「パパ!」
マリと呼ばれた女の子は破顔して、かわぜんに飛びついて行った。
「お面?」
「仮面舞踏会なのにマリが迷子で見付からないから、パパ、探し回ったよ。
はい。マリのお面」
「お面じゃなくて仮面よ、パパ」
「はは。ごめん、ごめん。
さあ、馬車に乗って出かけようか、お姫様」
回転木馬に向かう。
「うわあ!パパ、早く!マリ、白いお馬さんがいい!」
白い馬に乗せると、マリは上機嫌で足をブラブラさせた。
そして、回転木馬はゆっくりと回り出す。
弾けるような笑い声を上げ、仮面をつけたかわぜんの父親に向かって手を振る。2周、3周――。
やがて回転木馬は停まった。
「あ、いない?」
白い馬には誰もおらず、ただ、おもちゃの仮面が残っているだけだった。
「怜、直?」
「白い馬に乗って仮面舞踏会に行ったんだよ」
仮面を取って来て、甲田プロデューサーに渡す。
「回転木馬に誘導できたのはかわぜんさんのおかげです。ありがとうございました」
「あの子も、満足して成仏できたねえ」
「良かったです」
かわぜんは笑って、夜空を見上げた。
それにつられて、皆で空を見た。
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