第430話 チューニング(2)不定愁訴

 今日も、チューニングに挑戦だ。

 ザザ・・・ザ・ザザザ・・・ええ・・ザ・・・

 しばらく弄っても、その程度だ。

「また、明日だな」

 安岡は、布団にもぐり込んだ。


 楓太郎は、安岡の顔を見て首を傾げた。

「顔色、悪くない?」

 安岡は頭を掻きながらちょっと笑った。

「ああ……何か、疲れが溜まってるのかなあ。食欲が無いし、夜中、何か胸が苦しくてぐっすり寝られないんだよなあ。爺さんは心筋梗塞で死んだし、親父も心臓肥大だし、心配だから、病院行って来ようかな」

「心臓の家系かあ」

 たちまち、皆で深刻な顔になる。

「俺は糖尿とコレステロールだよ」

「ウチなんてハゲだぜ。父方も母方も、どっちも皆だから」

「ああ……それは、逃げようがないな……」

 同情の視線がそいつの頭に向く。

「今からやっとけよ、効きそうなシャンプーとか」

 楓太郎は安岡に、言っておいた。

「もしおかしな事があったらすぐに言えって、うちの先輩が言ってたから。夜でもいいからね」

「ああ。ありがとう」

 安岡は、ちょっと笑った。


 近くの病院で検査を受けた。

 栄養の偏りは自覚しているし、血管年齢が年金年齢だったとしても驚かない。そう、安岡は思っていた。

「健康ですよ。特に異常はありません」

 そう医師に言われて、安心もしたが、拍子抜けした。

「そうですか。

 じゃあ、苦しいのは……?」

「環境が変わったストレスとか、寝具のせいかな。重いとか、沈み過ぎるとか」

「寝具かあ。わかりました。ちょっと、変えてみます」

 安岡はそう言って、診察室を出た。

「寝具か」

 確かに、引っ越しを機に、部屋が広くなったのでベッドに変えたのだ。それに伴って寝具も変わった。

「今夜は、前の布団で寝てみよう」

 すっかり解決したような気になって、安岡は家に戻った。


 夕食は、きつねうどんと巻き寿司。そして、入浴をしてしっかりと温まる。

 最近まで使っていた布団をフローリングの上に敷き、枕元にはラベンダーの芳香剤。そして、「お休み前に」といううたい文句のハーブティーをカップに一杯。

 ハーブティーを啜りながら、今日も日課になったチューニングにチャレンジする。

 ザザザ・・ザ・ザザ・・・ザ・・お・ねえ・・・ザザ・・・

「おねえ?」

 昨日よりましになっているが、まだ、だめだ。

「おねえ、なあ」

 テレビに出ている色んなおねえタレントを思い浮かべ、安岡は、

「おねえの夢を見そう」

と独り言を呟いて、布団に入った。


 夜中の事だった。

「う、うう……」

 安岡はいつもの苦しさでボンヤリと目が覚めた。

 暗くて寒い部屋で、スッポリと布団をかぶった状態で、目を閉じたまま寝ている。

 気道が塞がれるような苦しさだ。

 ああ。心臓じゃなくて、気管支かもな。咳はでないから喘息じゃあないのかな。アレルギーとかかな。壁紙とかが原因の。

 そう思っているうちに、いつものように何となく苦しさが遠のいて行って、うつらうつらとし始めた。

 


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