第431話 チューニング(3)引っ越し祝い
楓太郎は他の友人達と一緒に、安岡の住むマンションを見た。引っ越し祝いに鍋パーティーをしようと集まったのだ。
「うわあ、かっこいいなあ」
新築ではないが、まだきれいなデザイナーズマンションだ。駅からも歩いて7分程と近いし、近所にはたくさんの店があって便利そうだ。
「ここが、月1万円?」
皆、顔に「羨ましい」と書いてあった。
エレベーターは9人乗りで、それで4階に行く。最上階だ。
「眺めもいいなあ。夜景とか」
「女の子とか、好きそうだな」
言いながら、安岡の住む401号室のドアチャイムを押す。すぐにドアが開いて、安岡が顔を出した。
「おう、上がれよ」
「お邪魔しまあす」
「うおお、広いな」
「日当たりもいいじゃん」
「まだ片付いててきれいだな」
「まだ女は連れ込んでないのか」
「いねえだろ」
「うるせえよ」
ワイワイ言いながら広いワンルームマンションを見て回り、ようやく準備に入る。野菜を洗う係や切る係と分担して進める中、楓太郎は安岡を見た。
「大丈夫?」
「ああ。寝具を変えても一緒だったから、ストレスかもな。
それと、胸というより、気道が締まる感じがするのがわかったから、壁紙とかの化学物質が原因じゃないかと思うんだよ。ほら、ホームアルデヒド」
「ああ、あれ。
心臓でなくとも心配だよ。壁紙変えるとか?」
「そうだなあ。まあ、年を越してからだな」
言っているうちに準備ができ、テーブルに運んで皆で囲む。
「安岡の新居に」
「かんぱーい!」
賑やかに、鍋パーティーは始まった。
良く食べ、良く飲み、わいわいと話す。
と、不意に、バッと後ろを時々誰かが振り返る。
「何?」
「ん、何でもない」
必ずこのやり取りで終わるのだが、ちょくちょく誰かが、気配を感じて振り返っていた。
楓太郎は何となく上を見た。
「あ、シーリングファン。新品だね」
「ああ。あれ、ついてたんだ」
「備品かあ。どこまでもオシャレだなあ」
皆で口を開けて天井を見上げるという間の抜けたポーズをとっていると、誰かが、ラジオを見付けた。
「これもアンティーク調でかっこいいなあ」
「つけていい?」
「いいけど、チューニングが難しくて、まだ聞けてないんだよなあ」
「よし。合わせてやる」
ラジオの前に座って、チューニングを始める。
ザザ・・ザ・ザザザ・・・
耳を済ませながら、チューナーを微妙に弄って行く。
ザ・ザザ・・ザザザ・・・お・・お・ねえ・・
「おねえ?」
それで、誰かが吹き出して、皆で笑いだした。アルコールが入っているので、少しの事でも爆笑になった。
結局、チューニングはできずにそのままだった。
翌日、部室でいつも通りお弁当にしようと、楓太郎は廊下で会った宗と一緒に部室へ向かった。
そしてガラリとドアを開けたところで、戸惑ったように足を止める。
「ふえ?怜先輩?直先輩?」
怜と直は真剣な顔を楓太郎に向けたまま訊く。
「楓太郎、お前、どこに行った?」
「ええ?」
「お前には憑いてないが、残り香があるぞ」
「弱くもないやつだねえ」
「ああ、面倒臭い予感が的中か?」
「えええ!?」
楓太郎は、戸口でジタバタし始めた。
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