第429話 チューニング(1)オシャレな新居
座って、ふう、と息をつく。たった1人の荷物だから大した事は無いと思っていたのに、引っ越しというのは大変だった。
「まあ、今度はちょっと広いし、オシャレだし、長く住もう」
言って、安岡はそれを見た。
ちょっとアンティーク調のラジオだ。据え付けのようにドンと最初から置いてあったもので、冷蔵庫くらいの大きさか。下半分は物を置けるようになっていて、安岡は雑誌を積んで置いた。
スイッチを入れる。
ザザザ、とノイズが聞こえる。チューナーで合わせようとするが、なかなか合わない。だがその内に、微かに人のようなものが入った。
ザ・ザザザ・・・ザザ・・え・・・ザザ・・
「難しいなあ。また今度挑戦しよう」
安岡は欠伸をして、ラジオの前から立ち上がった。
部室でいつも通り昼食を摂り、食後のお茶を飲む。
「もう12月かあ」
「早いねえ。今年は特にそんな気分だよねえ」
「今年は、試験とかに追われてたからなあ」
智史が遠い目をする。
「智史先輩は、春から司法修習なんですよね」
「そうや。一年間勉強と実習して、まあた試験受けて、それに受かったらやっと弁護士や。ああ、また試験や。
そうやった。引っ越しどないしようかな」
智史が嘆いた。
「引っ越しですかあ?」
「司法修習、寮はあるけど抽選やねん。地元のもんは家から通うんが普通やねんけどな。オレ、どないしょうか迷っててなあ。引っ越しは面倒やけど、近くの方が便利やん?でも、今のトコ、安いしなあ」
それで、ふと楓太郎が思い出したように言った。
「そうだ。学部の友達がこの前引っ越ししたんですよ。下北沢のマンションで、月に1万円らしいんですよね」
全員、無言で楓太郎を見、一斉に言った。
「おかしいんじゃないか、それ」
「怪しいで」
「下北沢で1万円って、安アパートかねえ?」
「大丈夫か、そこ」
楓太郎は首を傾けてから、言う。
「今日は普通に学校に来てましたよ。引っ越しの荷物整理で寝不足だって、欠伸はしてたけど」
「何か変だったらすぐに言えよ。何かある予感がすごくする」
怜が言うと、全員がうんうんと頷き、楓太郎は大きく頷いた。
「わかりました!」
「前の入居者が何か臭いか汚れを残したとか、その部屋が全く日が当たらないとか、高層階なのに階段しかないとか、そんな平和な理由である事を祈るが、面倒臭い予感がプンプンするよなあ」
怜が溜め息混じりに言って、直が頷いた。
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