第418話 復讐の風(1)大型台風

 古そうで、いかにも力のある何かが封印されていそうな壺だった。

「これを使役すれば、俺がキングだ」

 壺を眺めて、男は言った。

 外国から来たあの青年達は、これを開放して従えれば、ホワイトハウスだって言う事を聞かざるを得ないだろうと言った。そしてその役は、弱者を憂いている君達に相応しいと。

 その話を聞いていた秘書役の従兄弟は、サギか何かだろうと言った。何かウイルスでも入っていたらどうするんだ、と。

 だから彼は言った。そんな危険なウイルスなら、壺に革で蓋をしたような容器に入れて来た場合は自分も危ないだろう。それに、これはタダで貰ったもので、騙すメリットがないじゃないか、と。

 従兄弟は肩を竦めて、帰って行った。

 正直、他のメキシコ人がどうなろうが関係ない。俺は、俺が大事だ。俺が有名になって、もっと金持ちになれればそれでいい。いつまでもちんけな三流霊媒師でなんているものか。

 どうしようか。ニューヨークのテレビ局で開けてやろうかと思っていたが、今従えておいて、いきなり力を見せつけてやってもいいな。まず、慣れておくことも大事だろうしな。

 男はそう考えて、蓋に手をかけた。

 粘土で固められていた革を一気に取ると、中から強力な力が溢れ出た。その強大さに喜んだのもつかの間、一転して不安になる。

 従える事ができるのか?

 壺から飛び出したそれは、冷たい敵意を、男に向けた。


 異常気象のせいなのか、観測史上一番という大型台風が、毎年のように発生する。

「ちょっと涼しい程度でいいのに」

 カンカン照りの残暑の厳しい屋外を窓越しに見ながら、僕は言った。

 御崎みさき れん、大学4年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「春と秋が短すぎるよねえ」

 直もぼやく。

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「今回発生した台風は、何か変らしいですよね」

 水無瀬宗みなせそう。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。霊除けの札が無ければ撮った写真が悉く心霊写真になってしまうという変わった体質の持ち主だ。背が高くてガタイが良くて無口。迫力があるが、心優しく面倒見のいい男だ。

「ああ。ワイドショーで言ってたなあ。ええっと、海上で発生しないでいきなり陸の上で発生したとか」

 高槻楓太郎たかつきふうたろう。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。小柄で表情が豊かな、マメシバを連想させるようなタイプだ。

「ああ。後、いくらなんでも、進路がおかしすぎるらしいで。蛇行したかと思えば真っすぐどこかを目指すように進んだり、強くなったり一時的に弱くなったりやな」

 #郷田智史__ごうださとし__#。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。

「異常気象のせいですか?」

「いくら異常気象でも、基本的な原理原則は逸脱できないだろう?発生のメカニズムとか、移動の原理とか」

「確かにな。それは怜の言う通りや」

「だとしたら、これはやっぱり変だねえ?」

「ネットでは、軍の秘密兵器の実験がどうとか言ってますけど」

 全員で、無い無いと首を振る。

「後は、怪異絡みではないかっていうのもありましたね」

 宗が言うのに、今度は、首を傾ける。断言できるだけの材料が無さ過ぎる。

「まあ、大雨、暴風への備え、断線によるライフラインの停止や家を出られなくなる事に備えての買い物。やって置く事は色々あるな。

 ああ。あんまり被害が出たら、兄ちゃん達が大変なんだよなあ」

「避けてくれるのが一番なんだけどねえ」

「あはは。それ、フラグやでぇ」

「ふ、不吉な……!」

 皆で、台風接近中とは思えない空を見上げた。






 

 

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