第417話 デスマスク(3)花火大会

 それが消えた事で境界は消え、僕達はポツンと空き地の真ん中に立っていた。

 兵藤さんはビクビクとしていたが、人形が躍りかかってきた直後に失神したと言いくるめる。兵藤さんも、その方が納得できるのか、すぐに信じた。

 そして戻って写真を確認すると、3人共、普通の証明写真に戻っていた。

「あの空き地だけど、元は大きな家があったらしいねえ。そこの子供は体が弱くて、ほどんど他の子と遊んだりできずに家で寝ていたらしいけど、そのままある日、火事で一家全滅だって」

 直がどこから調べたのか、そんな事情を訊き込んで来た。

「そうか。いつも羨みながら見てたんだろうな」

 僕と直は、しんみりとしながら、あの子の冥福を祈った。


 家に戻ると、よたよたと玄関に出て来た敬が僕の足に取り付いて、

「ええーん、ええーん」

と見上げる。

「ただいま。お出迎えしてくれたのか?」

「ああう」

「花火に行きたいのか?遅くなったかな。ごめんな」

「あう!」

 一緒に待っていた隣の康介も、負けじとくっついてくる。

「怜君!直君も!花火!」

「ん、わかった。皆は準備できてるのか?」

「大丈夫よ」

「行こうか」

 兄と冴子姉が出て来て、皆で会場へ向かった。

 綿菓子、フランクフルト、りんごあめ、チョコバナナ――。たくさんの屋台がずらりと並ぶ。

「おおおう」

 子供2人の目が輝いている。

「敬は食べられないからなあ。かき氷の蜜のかかってない所にしような」

「あう!」

「康介は何がいい?」

「焼き鳥!」

「渋いねえ。流石は京香さんの子。将来が見える様だねえ」

 各々それを食べさせながら敬と康介を見ていると、兄が目を細める。

「兄弟みたいに仲がいいなあ」

 確かに、敬と康介は兄弟みたいに仲が良い。康介も自分がお兄ちゃんと思っているのか、2人で遊んでいる時やおやつの時などに、なにかと面倒を見てやりたがったりするのだ。

 今も、敬は振動で光る腕輪をはめた腕を振って康介に見せ、康介は光る剣を振って敬に見せている。

「仲の良い幼馴染か」

 反射的に、人形で友達を作っていたあの子を思い出す。

 直も同じだったらしく、

「あの子にもこんな相手がいたら良かったのにねえ」

と小さく呟く。

「敬と康介はその点良かったな。それに、僕も。兄ちゃんはいるし、直もいるし」

「えへへ。ボクもだねえ」

 兄はそんな僕達4人を眺めて、口元を緩めている。

 と、ひゅるるるる……と音がして、ドーンと、音と振動が響いて来た。

 花火が上がり始めたらしく、周りの見物人達が一方方向を向く。

 敬と康介も何事かと一瞬身構えたが、すぐに夜空にそれを見付けて、歓声を上げた。

「花火?」

「そう」

「あああ!おん!おん!」

「そうだな、凄いなあ」

 次々に咲いては散っていく。それを、敬と康介は手をつないで、口を開け、目を輝かせて見ていた。

 花火は消えてしまうが、この記憶は残るだろう。それが、いつか寂しい時や苦しい時に、助けになればいい。

「怜君、直君。お家でできる?」

「打ち上げ花火は、資格や届け出や場所が必要だからな。ちょっと無理だな」

「そっかあ」

「だから、特別な花火だから皆で見るんだよ」

「そうかあ!皆で見たら楽しいね!それと、美味しいね!」

 これには笑ってしまったが、間違ってはいない。

「お、連発だねえ」

 ドドドドドドーン、バリバリバリバリ。

「僕はしだれが好きだなあ」

「ボクは大きいのかねえ」

「兄ちゃんと冴子姉は?」

「3重のやつかな」

「私はドーンと一発大きいやつよ」

 ううむ、個性が出るな。

「ぼく、ロケット!ロケットのが好き!」

 康介が目を輝かせる。絵の出る、あれだ。子供はやっぱり、こういうのだろうな。

「ロケットか。成程」

「ええーん、ええーん!」

 敬も、笑顔で主張して手を伸ばして抱けと言って来る。

「丸いやつか?ニコちゃんマークかな」

 膝に抱き上げて座らせてやりながら、話しかける。

 元々、花火は、鎮魂の為に上げられたものだそうだ。随分と騒がしい鎮魂だが、それも悪くない。

 僕達は並んで、花火を見上げていた。






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