第416話 デスマスク(2)死に顔
依頼人は大学生の
「肝試しにねえ」
直が、呆れたのを堪えるように言う。
「本当かな、と思って。それに、もし見えたら、それも面白いかな、って」
面白いかなあ、と、僕と直は首を傾ける。
「よくその辺にある、何百円かで写真が何枚か出て来る、あれです。
その時出て来た写真も普通だったし、『何もなかったなあ』って言いながら帰ったんです。
でも、次の日に倉田が『変な声が聞こえる』とか言い出して、3日目に交通事故で死んでしまって。その次は飯島が同じ事を言い出して、やっぱり3日目に心筋梗塞で死んで。今度は……俺も、昨日……『お祭りだよ』って、1人でいたら耳元で子供の声が……」
言って、ガタガタと震え出した。
「そのスピード写真のボックスはどこにあったんですか。それと、その写真を見せて頂けますか、念の為に」
兵藤さんは、
「ああ、はい」
と言いながら立ち、机の引き出しを開けて、ギャッと叫んで飛び退った。
「な、何で!?」
「失礼します」
僕と直は、引き出しを覗いた。
整理整頓されているとは言い難い引き出しの中、証明写真があった。
が、思わず唸る。
「こんな顔で撮りましたか?」
「普通に撮ったよ!」
兵藤は半泣きだ。
「じゃあ、こうなったのはいつからですかねえ」
兵藤に振り返りながら訊く。
同じものが4枚プリントされた写真に写る兵藤は、恐怖を貼り付かせたような表情で、目を見開いていた。顔色も、灰色だ。
「わからない!わからないよお!
あ、でも、一昨日は何ともなかった筈だ」
声を聞いてかららしい。
「その倉田さんと飯島さんの写真も見られたらいいんですが」
「記念に一枚ずつ交換したのが同じところに入っている筈です」
言って、近寄ろうとはしない。なので、引き出しの中を見せてもらった。
「ああ、これだねえ」
「見事な」
片方は血まみれで無表情な顔で、もう片方は苦しみに悶絶したような顔をしていた。
「遺族が見たら、泣くぞ」
「参ったねえ」
想像して、嘆息した。
「では、その肝試しの現場に行きましょうか」
言うと、兵藤さんは、情けない顔で縮こまった。
そこそこ昼間なら人通りはあるが、夜になると途端に無人になる感じのところにそれはあった。
「ああ。バスも廃線だねえ」
「元は、『サニーヒル』か」
どうにか読めた停留所の名前だ。
問題のスピード写真ボックスは、すぐ隣にあった。見た目はありふれたスピード写真ボックスと変わりがない。
だが、天井部分に、一般人には見えないものがいた。
「何者だ」
「
「何かいるんですか!?」
兵藤は竦み上がって、落ち着きなく辺りを見渡す。
するとそれはニイッと嗤い、身を翻してその奥へと路地を進んで行った。
と、兵藤が突然大人しく人形のようになって、その後を追い始める。
「祭りへの参加は、招待客とその同伴者に限られるんだろうな」
「行くかねえ」
僕と直も、兵藤さんにくっついて進む。
すぐに、境界を越えたのがわかった。同時に、櫓と、幾つかの屋台が見えた。
「随分と静かな祭りだな」
人はいるが、皆無言で、動かない。それもそのはずで、どれもマネキンのような人形だった。
そこでやっと、兵藤が正気に返る。
「ん?おわっ!?ここは何だあ!?」
驚き、人形に近付いて顔をひょいと覗き込み、のけ反る。
苦しさに顔をしかめ、目を剥き、舌を長く突き出していた。
隣は、額に大きな裂傷があり、信じられないといった顔をしている。
「これは一体……!?」
「死んだ時の顔かも知れませんね」
兵藤さんは気味悪そうに見廻していたが、不意に、その人形を指さした。
「倉田!?あ、飯島か!?」
倉田と呼ばれた方は顔の半分を血に染め、飯島と呼ばれた方は苦しみに顔を歪めている。それは、引き出しに入っていた証明写真と全く同じ顔だった。
「そんな……」
兵藤は恐怖に彩られた顔で、目を見開いていた。ちょうど写真のように。
「何が目的だ」
それは、人形に囲まれて立っていた。
「友達が欲しかったんだけど、顔が無くて。
ねえ。顔をちょうだい。それで、ここで毎日お祭りをしよう」
「断る」
「ボクもパスだねえ」
「い、嫌だ、死にたくない!」
僕は、人形を眺めた。ここに、霊はいない。幸い、顔を写し取っただけだ。
「あのボックスで写真を撮った人間を、殺して顔を写し取ったのか」
「そうだよ。少し予告しておいてから迎えに行ったら、皆、表情が素直なんだ。生きてる時は、嘘ばっかりなのにね」
「お前のしている事は、容認できない」
「どうしてぇ?一緒に遊ぼうよ。んん、鬼ごっこね」
それはグイッと首を傾け、笑った。
人形達が、躍りかかって来る。
「ぎゃああああ!!」
兵藤さんがうるさいが、そっちは直に任せる。
斬る、斬る、斬る。しかし、数が多くて埒が明かない。なので、以前取り込んで得た体質を利用し、雷を放って人形を広範囲に叩き割り、また、火を放って燃やす。それで残ったものを、斬った。
「酷い!せっかく作ったぼくの友達を!」
怒って地団駄を踏むそれに、僕は刀を向けた。
「友達の作り方を間違ってるぞ。にっこり笑って自己紹介からだ」
「だって、だって」
「今度は間違えるなよ」
一刀で、それを斬った。
さらさらと崩れ、消えて行くのを見送って、振り返る。
「よし、終了――あれ?」
兵藤さんが、失神していた。
「雷と火のあたりでねえ」
「まあ、夢ってことにしよう。あんまり知られてありがたい体質じゃないからなあ」
僕と直は苦笑して、兵藤さんを起こした。
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