第419話 復讐の風(2)人災の嵐

 協会に呼ばれて行くと、外務省と防衛省の偉い人がいた。

 面倒臭い予感が、この時点でしている。

「今回のイレギュラーな台風について、情報が入った」

「グアムに住むメキシコ系アメリカ人の三流霊媒師の家が、ある日突然暴風を発生させて壊れ、霊媒師も死体で発見された。ミイラのようになっていたそうだ。

 その後、その暴風は海上へ移動し、船を巻き込んで壊しながら大きくなっていき、太平洋を横断中らしい。

 どうも日本へ到達しそうというので、向こうの大使館から報告が来た」

「駐在武官が確認したところ、船舶を次々に襲って、その度に大きくなっているらしい。その後は島に上陸して町を壊滅させたりして、より大きな島、より人のいる所を目指していると推測される」

 真面目な顔で、すぐに切り出す。

「最初に海上へ逃げたのはどうしてですか?」

 支部長が訊いた。

「わからない」

 僕は、訊いてみた。

「霊能師に話が来るという事は、そういう事なんですか」

 彼らは頷いた。

「暴風が発生する前に、外国人から壺をもらい受けたそうだ。強大な力を持つ何かを封印しているという触れ込みの壺だ。それを従えろと言われたと、従兄弟が言っているそうだ」

「よく、言う通りにしたなあ」

「怪しすぎるよねえ」

 呆れる僕達だったが、それは彼らも同じだったらしい。嘆息し、言葉を継ぐ。

「というわけで、純然たる台風というわけではないんだ」

「海上に出たのも、目指すものがそっちにあるのか、陸の方に避けたい何かがあったのか」

 言いながら、

「とにかく、その台風の上陸を阻止する、というのが目標ですね」

「被害が大きくなるのは確実だからな。よろしく頼みたい。これは、政府からの依頼だ」

「御崎、町田。協会としても、全力を挙げてこれに当たる事を決定した。2人には中心としてやってもらいたい。

 できるか」

 支部長は言って僕と直を見、僕と直は、目を見交わした。

「やりますよ。なあ、直」

「難しいなら、知恵を絞るまでだねえ」

 忙しくなりそうだぞ。


 アメリカも責任を感じたのか、はたまた暴風に恨みを持つのか、共同作戦を取る事になった。

 何せ、暴風を囲むだけの多数の船舶が必要で、それは、かなりの波風にも耐えうる頑丈さを持っていなくてはならないのだ。軍艦、護衛艦に限るだろう。

「概要を説明します。

 暴風を海上にて包囲。できた時点で、結界を作って足止めします。その為には、正確に船を所定の位置に付けてもらわなければなりません。

 それができたら、突入して、殲滅します。その間、やはり、位置は保っていてもらわなければなりません。

 殲滅が完了したら、終了です。

 何か質問はありますか」

 パソコンの画面の向こうに、参加する米海軍の艦長達、海上自衛隊の艦長達が並ぶ。

「説明を聞くと簡単そうだが、嵐の中で船を定位置につけるのか」

 比較的若いアメリカ人の艦長が言う。

「波の動きくらいには対応できるように、各艦に1人、こちらの協会員を向かわせます。町田を中心として微調整はできます。

 どちらも世界に名だたる海のプロフェッショナル。期待していいんですよね」

 これには不意を突かれたような顔をする者もいたが、去年お世話になった艦長が愉快そうに笑いだして、

「やって見せよう。我が自衛隊の訓練の成果を見せようじゃないか。生身であれに突入する君に比べたら、弱音なんて吐けるわけもない」

と言うと、アメリカの年嵩の艦長も、

「うむ。これ以上の犠牲を許すわけには行かない」

と続ける。

 実は、この2人にはあらかじめ説明をして、了解を得ておいたのだ。そして、もしもの時はよろしくと、根回しをしてあった。

 完全に流れが「よし、やるぞ!」という方向へ来たのを各艦長の返事と顔付きから確認し、直が引き継ぐ。

「では、艦船の位置については、私から説明させていただきます」

 沿岸部には他の霊能師が集結した、凄く大掛かりな作戦である。

 安全な一生はどこへ行ったんだろう。

 きっと、就職したら安定の毎日にはなるだろう。公務員だし。多分。そうだといいな。そう思いたい。不安は気のせいに違いない。

 



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