第409話 妖刀(3)鬼師匠
片手抜刀で、左膝が地面に着くほど低い姿勢からの逆袈裟斬り。一瞬で息の根を止める必殺技だ。
「よし、いいぞ」
河上師匠は頷いた。
「突きは沖田に習っただけはあるが、低い姿勢で飛び込んでくるところなど、むしろ私に近いものを感じたが、その通りだったな。お主に合っている」
「ありがとうございます」
裏の警察署の道場を借りて稽古をしていた。ほかの人には、まるで一人で素振りをして、時々転がっているようにしか見えないだろうが、大変である。
何せ、3人なのだ。それも相手は、疲れ知らずの幽霊だ。
「では次は小太刀だな」
「休憩挟みましょうよ」
「戦場で敵は休息させてはくれんぞ」
「ほれほれほれ」
「ぎゃあああ!」
直と、報告がてら面白がって見に来て可視化の札を持つ徳川さんは、笑顔でそんな僕の稽古風景を見ていた。
神様。絶対に今度は、陰陽師の霊を!お願いします!
しかし、稽古は厳しいものの、沖田師匠を含め、3人の教えを受けられるのはラッキーではある。
「基礎はできておるかな」
「我流か」
「はい。自分なりに工夫するしかできなかったので、ネットで調べたりしながら」
「そうか。みとり稽古というわけだな」
「よし。そういうわけなら、ガンガンいくか」
「え」
「凌いで、見て、体で覚えよ」
鬼だ。3人共、剣に関しては鬼だった。
ようやく休憩になった僕に直とレモンを勧めながら、徳川さんは笑った。
「お疲れ様。いやあ、いい経験だよねえ。皆羨ましがるよ」
「だったら、一緒にどうですか」
「ははは」
笑って誤魔化した。
「この刀の持ち主はある個人経営の会社の社長で、刀剣蒐集の趣味があったらしい。それが急に心筋梗塞で亡くなって、相続税の関係で調べていたら自室に日本刀を無届で隠し持っていた事が分かった。去年特殊サギにあって現金はほとんどなく、それで最終的に、刀を手放す事にしたようだ。この時、騙された母親が、責任を感じて自殺している。
問題の息子は現在21歳。サギの一件で相当警察にも親にも怒りを持っていたらしい。子供の頃から剣道をしていて、腕前は相当のものだそうだ」
「相当、ですか」
不安になる。
「数日前に、海外で不法就労で逮捕されたグループがどうも特殊サギグループだったというニュースが流れたけど、それを見て、サギと殺人で立件できないならそんなのおかしいと、随分怒っていたと友人達が証言している」
「確かそのグループ、近々日本に送還されるとか言ってませんでしたか」
「ああ。たぶんやつもそれを狙って来る可能性が高い」
「そこを、待ち構えて捕まえるんですねえ?」
「そうだな。その前に見つかればいいが、今のところ、どこに隠れたのか、サッパリだよ」
徳川さんは肩を竦めて嘆息し、僕と直は気を引き締めた。
と、聞いていた師匠達が真面目な顔で言った。
「細かいところはわからぬが、とにかく近い内に決戦の日が来るのだな」
「相手は手練れの上に、村正まで所持している」
「これは、心してかからねばな」
「となれば時間が惜しい。続きをやるか」
嬉々として、師匠達は僕を引っ立てた。
そんな地獄の稽古中、かのグループが日本に帰国するという知らせが届いた。一般客の少なくなる夜の便とはいえ、いないわけではない。現に記者やテレビカメラは集まっている。決して、一般客に被害があってはいけない。
僕達も空港に張り込みながら、気配を探っていた。
と、警官に囲まれるようにして、犯人グループが姿を現した。そこに、取材陣がカメラを向ける。
「向こうの警察も日本の捜査に協力して、色んな証拠は押収できたらしいってテレビで言ってたな」
「たまたまきっかけがあって捕まったから良かったけど、そうでないと、まだ被害は出てたんだろうねえ」
「海外に拠点を置くとか、犯罪者も知恵を付けて来てるよな」
小声で直と喋っていると、急速に犯人グループに接近する人物がいた。黒いモノを背中に貼り付かせた青年で、手には長い物を持っている。
それを確認したのは、飛び出した後だった。
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