第408話 妖刀(2)達人たち
彼らは、
3人共幕末の侍で、佐々木さんと桂さんは京都見回り組の人間で、共に日本を代表する小太刀の達人だ。河上さんは攘夷派の人間で、新選組ですらも河上さんを避けて通ったと言われるくらいの剣の達人だ。
「我々は気付けば各々刀に憑いていてな。持ち主を鍛えてやろうと、日々研鑽を怠らずに過ごして来た」
佐々木さんが代表して言い、
「しかしこの持ち主は、刀を暗いところに隠すようにしまい込んで、一向に表に出しもしなければ、振りもせん」
と嘆く。
「覗きに来た息子はその気があったようだったが、よりによって、村正に憑かれて村正を持ち出しよった」
「村正は徳川に祟る妖刀として知られているが、正直、眉唾物だと思っていた。しかしあれは、本物だったな」
「ああ。徳川にというのではなく、とにかく血を吸うのが好きな刀だ」
「遠くなった戦場から、平時は辻斬りまで。とにかく、持ち主に人を斬らせる刀だったな。なにせあの刀に憑いていたのは、首きり役人だったからな」
相対して話を聞いていた僕と直は、青くなった。
「そんな刀を持ち出したんですか、持ち主の息子は」
「ああ」
「……怜、勝てるかねえ?」
「……いくら沖田さんに鍛えられたと言っても、ほんのさわりだしな。どうだろう。いっそ剣道の師範とかの方が――」
言う僕に、河上さんが割り込んだ。
「ちょっと待て!」
見ると、3人共、目が爛々と輝いている。
「お主、剣士か」
「え。いや……まあ……仕事で、こういうのを使います」
右手に刀を出して見せる。
「また面妖な!」
「以前、霊に右腕を切断されましてね。その後、生えたんです。どうしてか。以後、こうなりまして」
彼らはしげしげと右腕を眺めた後、居住まいを正した。
「沖田殿というのは、どの程度の剣士なのかな」
「沖田総司さんと言って――」
「何だと――!?」
急に活気づく3人に、僕と直は逃げ腰だ。
「怜、怜。同時期の人だよねえ」
「あ、そうか。それも同じ京都にいた――新選組と見回り組!攘夷の志士!」
引いてはいけないトリガーを引いてしまったのではないだろうか。
彼らは何やら目を輝かせ、僕に目をひたと据えている。
「ええっと、そろそろ成仏しますか」
「待て。これも何かの縁。手合わせをお願いしたい。その代わり、剣技を全て教授しよう」
河上さんはやる気満々だ。
「私も是非」
「うむ、私もだ。私は小太刀二刀流だぞ」
小太刀は、誰かに習いたいとは思ってはいたのだ。いたのだが……。
「幕府講武所の剣術師範だった身としては、是非、技の伝授を成し遂げたい」
「うむ。我らの心残りであるな」
「このままでは死んでも死に切れぬ」
確かに、この上なく贅沢な話だ。しかし、身が持たないのではないかと思う。
僕は横目で直を見た。
「いい話だとは思うけど……3人ですか。こっちの相棒にも」
「いやあ。ボクは札を使うのが専門なので、陰陽師の方が出た場合はボクが教えてもらいますけどねえ」
「……そうだな。いつか出て欲しいもんだな。安倍晴明の霊とか」
「やめてよぉ、フラグだよぉ」
「決まりだな」
「我らで、あの妖刀にも渡り合えるようにみっちりと鍛えてやろうではないか」
「さあ、行くぞ」
「……あれ?何でこうなった?何しにきたんだっけ?」
「怜。はちみつ漬けレモンの差し入れくらいはボクも作れるからねえ」
直が、優しく慰めてくれた。くそっ。
国税庁の職員に事情を話し、3人が憑く刀をしばらく借りる事になった。そして、陰陽課の徳川さんにも事情を話し、息子の方は任せる。
そして僕は、暇を持て余し続けた達人3人の稽古をみっちりと受ける事になった。
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