第406話 新人研修(4)疲労困憊

 新人2人の研修評価を提出する。

「大丈夫か、おい」

 幸い肋骨は無事だったが、打ち身と筋肉痛が凄い。

「死ぬかと思いました……」

「すまん」

 部長は申し訳なさそうに頭を下げた。

「草野さんは経験を積めば自信もついて大丈夫でしょうねえ。東洞さんは、あの根拠のない自信をどうにかしないと、本人も、それより周りが死にますよねえ」

「わかった。本当に、ご苦労さんだったな」

 僕と直は部長に礼を――したかったができなかったので、目礼をして部屋を出た。


 夕食の席で研修の話をしたら、兄と冴子姉は微妙に笑いそうな顔をしていた。

「それは、大変だったな」

 御崎みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

「そうか。それでこのメニューなんだな」

 納得したように、改めて夕食のテーブルを眺めた。

 かつおのたたき、豚の冷しゃぶサラダ、タコ酢、豆ごはん、じゃがいもとニラの味噌汁。

 かつおやまぐろ、鳥の胸肉に含まれるイミダゾールジペプチド、クジラに含まれるバレニン、豚などに含まれるビタミンB群、酢の物。これらは、疲労回復に良いとされている栄養素だ。

 豚の冷しゃぶサラダは、豚を60度くらいの湯で軽くゆで、ザルに上げて、水にさらさずに冷やすのが美味しさのコツだ。こうすれば固くならず、柔らかい。そしてタコは、ぶつ切りでも構わないが、表面をギザギザの波型にした削ぎ切りにすると、酢やしょうゆなどが絡みやすいので、刺身の時などにも良い。

「いやあ、お疲れ様」

 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。

「美味しいわあ。作るの大変じゃなかった?」

「大丈夫。気分転換にもなるし」

 答えると、甥のけいが手を伸ばして来て、

「ああーう」

と何か言う。

「そうか。労ってくれるか、敬も」

 それを見て、皆でホッと和む。

「まあ、とにかく、しばらくはのんびりできるな。後は官庁訪問か」

「まだ、合格してるかどうかわからないよ」

「してるに決まっているし、しているとして予定を今から組んでおきなさい」

「うん、わかった。はい」

「でも、あれだぞ。警察に採用されたら、最初は体力トレーニングがきついぞ」

「ああ……受かったら、体力作りをするべきかな」

 和やかに夕食をとりながら、体力作りをしようと、僕は固く決心したのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る