第405話 新人研修(3)自信家
次の受け持ちは、
父方の曾祖母は霊能者だったらしく、自身も、札の扱いには自信があるそうだ。
僕と直より1つ上だとわかると、途端に態度が大きくなった。
まあ、いいけど。
「東洞さんの現場はこの蔵ですねえ」
調査した者の見立てでは、蔵に住み付いたたくさんの霊が、バラバラになったり集合したりを繰り返しながら、蔵の中で暴れまわったり、人を閉じ込めたり、地震のように揺らしてみたりするらしい。
「骨董というには、あんまり値の付きそうなものは無さそうだなあ」
失礼な事を呟きながら、東洞さんは蔵の中へ足を踏み入れた。
真ん中が吹き抜けになった2階建てで、ガランとしている。その吹き抜けの部分に、集まって実体化した状態でそれがいた。
「実体化してるなあ。サポートしましょう」
話によると、東洞さんはあんまり力そのものは強くないらしく、直のような札使いとしてやっていく事になるようだ。なので、今回は東洞さんの札をメインに使いつつ僕が斬るという事になる。
右手に刀を出し、
「東洞さんが基本、指示出しをして下さい。準備はいいですか」
と訊く。
「いつでも」
フッと笑うのを見て、前へ出る。
バッと、集合体がばらけた。
「東洞さん?」
「え?あ、一体ずつ片付けて!」
まあ、従おう。それが研修だ。
逃げ回るのを一体ずつ追っては斬り、また追う。東洞さんはと見ると、やたらときょどきょどと動いては時々札を切り、
「ああ、逃げた!」
等と言っている。
直は、本当に気の毒そうな顔で僕を見ていた。
東洞さんの札は、止まっているものには当たっても動くものにはなかなか当たらず、結果、僕が走り回ってほとんどを斬った事になる。
体力が、やばい。
残ったやつが2階に飛び上がって見下ろしており、僕は東洞さんをチラと見た。
「どうします。飛ぶ?階段?」
頼むから、階段なんて言うなよ。そんな願いが通じたのか、
「と、飛んで」
と言うので、ジャンプした。
1枚目の札が来て、首尾よく上に跳ね上がる――が、跳ね過ぎだ。ロケットの打ち上げか!天井に激突しそうになる僕に、霊でさえも驚いて硬直したので、斬っておく。
と、体が落下に入る。
「え?札!札!」
「え?あ」
殺す気か!と思ったが、一応札が来た。
が、安心するには早かった。札は鋭く僕の肋骨に激突する。
「ゲッ」
「わああ、怜!」
フレンドリーファイアに棒立ちになる東洞さんに代わって、直が札を切り、ようやく僕は無事に着地した。
「……ノーコンか……」
折れてないだろうな。
痛みと疲労に息も絶え絶えな僕に、呆然とした目を向ける東洞さん。
「ふうん。話と違う」
誰のせいだよ、おい!
言えない僕に変わって、直が言う。
「まず、こういう時は札で一ヶ所に集めるのが、当たり前だし合理的だねえ。相手がいつも動かない的だったらともかく、これじゃあ片付かないねえ。相棒の術者に掛ける負担が、半端ないよねえ、主に体力的に。
それと、力加減とコントロールにもまだまだ訓練の必要があるねえ」
「ううーん。でもそれって、相手が合わせるんじゃないの」
ほざく東洞さんに、僕もようやく息が整って言う。
「跳んでる最中に自力で移動できるならやってみてくれ」
僕の相棒はやっぱり直だよな!
気まずそうな顔をそむける東洞さんに、心の底から、もう新人研修はしたくない、と思った。
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