第405話 新人研修(3)自信家

 次の受け持ちは、東洞とうどう たもつという23歳の大学を出たばかりの男だった。私学の大学の人間科学部に通っていたそうで、心霊サークルに所属していたと自慢げに語っていた。

 父方の曾祖母は霊能者だったらしく、自身も、札の扱いには自信があるそうだ。

 僕と直より1つ上だとわかると、途端に態度が大きくなった。

 まあ、いいけど。

「東洞さんの現場はこの蔵ですねえ」

 調査した者の見立てでは、蔵に住み付いたたくさんの霊が、バラバラになったり集合したりを繰り返しながら、蔵の中で暴れまわったり、人を閉じ込めたり、地震のように揺らしてみたりするらしい。

「骨董というには、あんまり値の付きそうなものは無さそうだなあ」

 失礼な事を呟きながら、東洞さんは蔵の中へ足を踏み入れた。

 真ん中が吹き抜けになった2階建てで、ガランとしている。その吹き抜けの部分に、集まって実体化した状態でそれがいた。

「実体化してるなあ。サポートしましょう」

 話によると、東洞さんはあんまり力そのものは強くないらしく、直のような札使いとしてやっていく事になるようだ。なので、今回は東洞さんの札をメインに使いつつ僕が斬るという事になる。

 右手に刀を出し、

「東洞さんが基本、指示出しをして下さい。準備はいいですか」

と訊く。

「いつでも」

 フッと笑うのを見て、前へ出る。

 バッと、集合体がばらけた。

「東洞さん?」

「え?あ、一体ずつ片付けて!」

 まあ、従おう。それが研修だ。

 逃げ回るのを一体ずつ追っては斬り、また追う。東洞さんはと見ると、やたらときょどきょどと動いては時々札を切り、

「ああ、逃げた!」

等と言っている。

 直は、本当に気の毒そうな顔で僕を見ていた。

 東洞さんの札は、止まっているものには当たっても動くものにはなかなか当たらず、結果、僕が走り回ってほとんどを斬った事になる。

 体力が、やばい。

 残ったやつが2階に飛び上がって見下ろしており、僕は東洞さんをチラと見た。

「どうします。飛ぶ?階段?」

 頼むから、階段なんて言うなよ。そんな願いが通じたのか、

「と、飛んで」

と言うので、ジャンプした。

 1枚目の札が来て、首尾よく上に跳ね上がる――が、跳ね過ぎだ。ロケットの打ち上げか!天井に激突しそうになる僕に、霊でさえも驚いて硬直したので、斬っておく。

 と、体が落下に入る。

「え?札!札!」

「え?あ」

 殺す気か!と思ったが、一応札が来た。

 が、安心するには早かった。札は鋭く僕の肋骨に激突する。

「ゲッ」

「わああ、怜!」

 フレンドリーファイアに棒立ちになる東洞さんに代わって、直が札を切り、ようやく僕は無事に着地した。

「……ノーコンか……」

 折れてないだろうな。

 痛みと疲労に息も絶え絶えな僕に、呆然とした目を向ける東洞さん。

「ふうん。話と違う」

 誰のせいだよ、おい!

 言えない僕に変わって、直が言う。

「まず、こういう時は札で一ヶ所に集めるのが、当たり前だし合理的だねえ。相手がいつも動かない的だったらともかく、これじゃあ片付かないねえ。相棒の術者に掛ける負担が、半端ないよねえ、主に体力的に。

 それと、力加減とコントロールにもまだまだ訓練の必要があるねえ」

「ううーん。でもそれって、相手が合わせるんじゃないの」

 ほざく東洞さんに、僕もようやく息が整って言う。

「跳んでる最中に自力で移動できるならやってみてくれ」

 僕の相棒はやっぱり直だよな!

 気まずそうな顔をそむける東洞さんに、心の底から、もう新人研修はしたくない、と思った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る