第404話 新人研修(2)元引きこもり
まず最初に受け持つ事になったのは、
終始おどおどとして自信もなく、視線も合わせられない。霊能師としても、それより一社会人としてやっていけるのかと、こちらが心配になる。
「じゃあ、行きましょうか」
「はははい!」
「工事現場ですねえ。事故が多発するほか、夜中に無人の筈が、勝手に機材が動いたりするそうですねえ」
「そそそうですか」
「草野さん。リラックスしましょう」
「はははい!」
だめだ。
ガチガチの草野さんと僕達は、問題の工事現場に行った。
長く空き地だった所で、何の供養もしないまま違法に墓石が捨てられており、霊が怒っているというのが、調査した者の見立てだった。
「ああ、確かになあ」
現場には、捨てられた先祖達がたくさんいた。それが、墓仕舞いの供養も何も無く墓を捨てられた事で、墓石の撤去はしたが、この場に残って怒っていた。
「この現場は草野さんがやって下さいねえ。僕達はもしもの時のサポート要員ですからねえ」
「ががががんばります!」
僕と直は、どんどん不安になっていくのを押し殺して、平気な顔で、何かに備える。
「えええっと、札を配置して、浄化、します」
「はい」
草野さんは場を見て、ポイントを選定していく。
物には重心というものがあるし、魚の頭の骨だってポイントに刃を入れれば簡単に切れる。同じように、一定範囲の浄化も、ポイントを押さえると上手く行く。反対に、ポイントを外すと失敗することもある。
「ここ、と……ここ、か、な……」
一応は口出ししない事になっているので、ついて歩きながら心の中で思う。
違う、そこじゃない、と。
やがて一周札を配置し終え、発動させる。
が、案の定、失敗して霊が暴れまくる。
「ギャアアアア!!何でェ!?」
今度はそれを抑えないといけないのだが、札を書こうとしては霊の攻撃を受けて逃げ、また書こうとしては逃げる羽目になって札をばら撒き、半泣きになりながら体力の限界まで走り回っていた。
後半は霊も、何かこいつは変だぞ、と思ったのか、追いかけて遊んでいたようだった。
ぜいぜい、はあはあ、と息を荒くし、生まれたての小鹿の如く足をプルプルさせる草野さんをどうにか浄化した現場に座らせ、水を差し出す。
「あ、ありが、あり……」
言いたい事はわかる。別に蟻と言いたい訳では無く、礼を言いたい事くらいは。
「いいから、まず、休んで下さい」
「ふぁい」
ゴクゴクと水を一気に飲んで、ぷはあーっと息をつく。
直が頃合いを見て、アドバイスを始めた。
「札の選定ポイントが微妙にずれてたんだねえ。草野さんはじっくり見るのを怖がってるでしょう。だからだろうかねえ。それと、初めからある程度の種類の札を作って持っておくといいねえ」
「は、はい」
「大丈夫だからねえ。焦らなくてもいいし、自信を持てばいいねえ。ちゃんと札は発動できてるんだからねえ」
「あ、はい!」
初めて、草野さんが、真っすぐに直の目を見た。
しかし、疲れた。
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