第403話 新人研修(1)二次試験その後

 試験が終わり、思わず遠い目でこの1ヶ月を走馬灯のように振り返ってしまった。

 御崎みさき れん、大学4年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「長かったよねえ」

 直も、そうしみじみと言う。

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「まだ結果はわからないし、これに合格したとしても、各省庁訪問があるけどな」

「それでも、気分的に楽だよねえ」

「確かに」

 4月終わりから公務員試験の1次試験。次は5月半ばに、司法試験の論文式と短答式。そして、この2次試験である。

 2次試験は1次とは違って、面接とグループでの政策課題討議だ。数人ずつのグループで討議をするのだが、内容は当然の事、リーダーシップや協調性なども観察される、自分だけでは何ともしがたい、実に気を使う試験だ。

 僕と直は別のグループになっていて、お互いによくは知らない。

 正直、僕のグループはやり難かった。やたらと張り切ってリーダーシップを取りたがり、反対意見を出そうものなら、青筋を立てて唾を飛ばす勢いで迫って来るやつがいたのだ。それに委縮して喋らなくなる学生もいれば、反発して見下すように突っかかる学生もいたので、まとめるのにうんざりした。

 と、その、勝手に僕を「ライバル認定」する学生が僕の前に立った。

「御崎君!今度会う時を楽しみにしているよ!」

「あ、うん。でも、合格するかどうかわからないよな」

「自信が無いか。やっぱりな。はっはっはっ!」

 殴りたい。そう思っていると、近くにいた同じグループだったやつも、何かを堪えるように深く溜め息をついていた。監督官も、苦笑している。

 それを見て、直も何かを察したように乾いた笑みを浮かべた。

「じゃあ!」

 彼が背中を向けた時は、その辺一帯の学生はホッと息をついた。

 彼は皆にとっても、多大なるストレスだったらしい。

「まあ、いいや。帰ろうか」

「そうだねえ。夏の肝試しシーズンを前に、新人研修を頼まれてたしねえ」

「ああ、そうだったな。こういっちゃあ何だが、面倒臭いな」

「だねえ。ボク達、あんまりスタンダードの霊能師じゃないからねえ」

 それでも仕方なく、僕と直はまずは着替えに帰る事にした。



 




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