第396話 誘い(1)新入生
新入生が、ぞろぞろと歩いている。その顔は、大抵、喜びと期待に満ち溢れていた。
「僕達も、まあ、あんな感じだったよなあ」
「そうだねえ。この時期がこんなにハードだとは、思っていなかったもんねえ」
「お前らは公務員試験の上に司法試験やろ。無茶や」
「ちょっと失敗した。去年のうちに、司法試験は受けておくべきだった」
僕が嘆息すると、直も、
「計画性が無かったよねえ」
と頷き、2人して反省する。
「これで霊能師の仕事が入って来たら、大変でしたね」
「法学部ってただでさえ大変なのに。本当に、雰囲気が全然違いますよね」
「お前らは、今から動けよ、就職に向けて」
僕、直、智史の心からの警告に、宗と楓太郎はこくこくと神妙な顔で頷いた。
僕達はいつものように部室でお弁当を食べようとして、途中で宗と楓太郎に会い、一緒に歩いているところだった。
と、足が止まる。希望に溢れた新入生達の群れの中に、その気配を見付けてしまったのだ。
「……ああ、直」
「……困ったねえ、怜」
それが何なのか、これまでの付き合いで智史達もわかっている。
「アカン、アカンでえ」
「怜先輩、直先輩。せめて、協会への相談を促すだけにしましょう」
「そうですよ。どの人か教えてくれたら、ぼくと宗で言いに行きますから。ね」
気遣ってくれる友人、後輩に、涙がでそうになる。
「ありがとう。でもな」
「うん。放っておけないんだよねえ、気になって」
「ああ……この、お人好しが……」
3人が同時に呻いた。
そして僕達は、彼に近付いた。
見るからに新入生といった雰囲気の男子で、並ぶ部室を眺めながら歩いている。その目の下にはうっすらとクマが浮き、残り香のような霊の気配がまとわりついていた。
「ちょっといいかな」
これで、「勧誘かな」という顔を見せるのは新入生だ。居合わせた2年生から上は、
「あ、辻霊視よ」
「あいつ、憑いてるんだな」
と、興味津々の目を向けて来る。
「は?ついてる?何がラッキーなんですか?」
「ついてるが違うわ。まあ、ある意味では見てもらえてラッキーだけど」
新入生に、コソコソと教えている。
そう言われてたのか。知らなかった。
まあ、気を取り直して、その新入生に向かう。
「霊能師の御崎です」
「霊能師の町田です」
「ああ……」
彼は、ホッとしたような顔をした。
「自覚があるんですね」
「はい。もう、毎日、毎日。どうしていいか……」
彼は、溜め息をついた。
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