第393話 さかさびな(2)連続する怪事
内風呂は、熱いの、ぬるいの、ジェット、サウナ。露天風呂は、檜風呂、岩風呂、壺風呂、薬草風呂。人も少なく、ゆったりとできた。
「いやあ、いいお風呂だったね」
真先輩が言うのに、
「やっぱり温泉はいいなあ」
「大きいだけでも気持ちいいよねえ」
と、僕も直も同意する。
「それにしても、宗。浴衣が似合うなあ」
楓太郎が、羨ましそうに言う。
「そうか?」
肩幅などが適当にあり、半乾きの髪を後ろに撫でつけたような髪形が、どうにもカッコいい。兄ちゃんの次に。
楓太郎は何か、かわいい。直も、そういう感じだ。真先輩は若旦那という感じで、智史は普段着のロッカーとでも言おうか。
「何か宗、和服が似合うのかな。着流しとか、袴とかも似合いそう」
言うと、皆で宗を眺めて、「ああ、ああ、ああ」と頷く。
「真先輩も、羽織とか着たら似合いそうですよねえ」
「ええとこの、若旦那風!」
などと皆で言いながら部屋に戻ろうとロビーへ差し掛かった時だった。
雛飾りの方で何か一瞬気配が揺らめき、それと同時に、階段で悲鳴が上がった。
「女将さん!!」
居合わせた仲居やフロントにいた従業員が、階段の下にうずくまる女将さんに駆け寄って行く。
「どうしたんです?」
「急に空中に飛び出すみたいに女将さんが階段を飛び降りて」
「何かに背中を押された様になったのよ。誰もいない筈だったんだけど」
そんな事を言っているのが聞こえ、皆、僕と直に目を向けて来た。
「……一瞬、お雛様の方から、何かを感じたんだけど、なあ、直」
「うん。今はもう、何もないよねえ、怜」
僕達は、揃ってお雛様を見た。
と、今度は中年の男性が腕をかばいながらやって来る。
「社長!?」
「急に板場で火が吹き出して、ちょっと火傷をな。不自然な火の感じだったが……。
ん、どうした?」
「女将さんが、変な感じに階段から落ちて……」
皆、黙ってお互いの顔を見やる。
「まあとにかく、お2人共病院へ行きましょう」
支配人が言い、テキパキと指示を出す。
「そろそろ夕食です。皆、取り掛かって下さい。女将さんの挨拶は、今日は宴会もないし、抜きましょう。皆は浮足立たずにしっかりとお願いします。何かあれば、仲居頭の珠代さんか私に連絡をお願いします。
社長、女将さん、湯守りのシゲさんに車を出してもらいます。病院へ行って下さい」
「すまんが、後を頼む」
バタバタしながらも、目立たずに素早く指示を出す支配人を、やるな、と思って眺め、雛飾りに目をやった。
お雛様は、我関せずと言わんばかりに、澄ましかえっていた。
夕食は何事もなく各部屋に運ばれ、そんな事故があったなんて、居合わせた僕達以外気付いてもいないだろう。
「真先輩、卒業おめでとうございます」
「かんぱーい!」
ビールで乾杯をして、料理に箸を付ける。
品数も多くて豪華な夕食を食べると、すっかり満腹だ。
「お風呂だけでなく料理も良かったよね。ここは、当たりだね」
真先輩も喜んでくれているらしい。
「で、さっきのアレだけど」
と、目をキラキラとさせて来る。
「いやいや、真先輩。卒業記念旅行でわざわざ首を突っ込まなくても」
「そうですよう」
言う僕と直に、
「心霊研究部にふさわしい旅行だよ」
と笑いかける。
すっかり、興味を持ったらしい。
「……わかりました。真先輩が嫌でなければ」
それで全員、嬉しそうな顔をした。
「まあ、これまでにも何回か心霊絡みの事件にもおうたな」
「懐かしいね」
「そう言えば怜先輩と直先輩。旅行っていつも何か起こりますか?」
「いくら何でも、毎回何か起こるなんてないよ、宗……あれ?」
「……起こってるか、ねえ?」
「おかしいなあ」
「そんな筈は無いんだけどねえ。あれ?」
僕と直は、高校以来の旅行について考え始めた。
旅行の度に、何かあったな……。
「何か、すみません」
「いやいや。願ったりかなったりだよ。
そもそも部の発足は、ぼくの依頼だったんだよね」
僕達は、部の発足からの色々を、語り合った。
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