第387話 燃える馬(4)感謝と責任と
馬はそこから飛ぼうとしたが、既に直の結界が発動していて、ここから離れられない。
おのれぇ
今度こそ願いを叶える
札とお守り、別々の意思を感じる。
枝からそれをそうっと取り、広げた。
「火伏せの札と学業お守り?」
火は、札か。馬がお守り?どうして馬?
お守りをひっくり返すと、馬の絵柄が刺繍してあった。
「ああ、それで、燃える馬か」
「成程ねエ」
直も覗き込んで感心した。
「今度こそ願いを叶えるというのは、お守りですか」
秋は、力になれなかった。今度はライバルを減らしてでも
物騒だな。
「札の方はどうして?火事を防ぐ札なのにねえ」
もう不要だからと、握り潰されて投げられた。屈辱だ
僕と直は、怒るその様子に、かける言葉を考えた。
「感謝が足りないというか、マナーをわかってない人が、どうも不愉快な思いをさせてしまったようですね。申し訳ありません。それはお詫びしますが、だからといって放火して回るのはだめですよ。
お守りも、ライバルを卑怯な手で排除なんてだめですよ」
「後は本人に任せて、もうどちらも、あちらに帰っていただきましょうかねえ」
我を粗末に扱った報いを人に受けさせるまでは嫌だ
「そんなの、関係ない人には迷惑なだけですよ」
神に対して何たる事を。
お前から焼き尽くしてやろう!
合格の邪魔はさせない!
「祟り神になったら、昔から遠慮なく調伏したのが人ですので」
飛び掛かって来る馬に捜査員が慌てるが、真っ向から取り込む。
「消えたぞ!?」
益々慌てる捜査員達をよそに、それを各々に分け、浄化して、札、お守りに戻す。
「これで大丈夫。今度、他の古札と一緒に焼けばいい」
札のしわを伸ばして、直が溜め息をつく。
「つい、イライラとして当たっちゃったんだねえ、これを収める時。本人は全くこんな事になってるなんて思っていないよねえ」
「たぶんな。今頃は、次は自分の家が燃えるんじゃないかって、普通に怯えてるんじゃないか」
捜査員は顔を見合わせた。
「一応、指紋を取って誰のか調べますか」
「どうしたもんかなあ。まあ、取り敢えず証拠品として持ち帰って、上の判断次第だな」
札とお守りをビニールの袋に入れ、捜査員は、何とも言えない顔をした。
思い返してみて、しみじみと思う。
「感謝しなさすぎと責任感の強すぎが、今回の原因と言えば原因かな」
直も頷いて、嘆息した。
「これじゃあ、うっかりお願いできないねえ。公務員試験もあるのに」
「まあ、こんなのは稀な例だろうけどな」
「本当は、神社でお願いするのは間違ってるとか言うけど、するよねえ」
「するよなあ」
うっかり、真面目過ぎる神様にお願いしてしまったらと思うと、怖くてお願いできなくなりそうだ。
「ま、自力で頑張るのが基本。恨まない事だな」
「だねえ」
僕達は言うと、お茶を啜った。
「あ、思い出した。夏ごろまで仕事は控えさせてくれって言ったら、納得はしてくれたけど、後から新人の面倒を見てもらおうかって言ってたねえ」
「面倒臭いなあ。って、京香さんに見て貰ったんだし、順送りだろうがな」
「そうなんだけどねえ。でも、さあ」
「面倒臭い」
僕と直は、顔を見合わせて苦笑した。
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