第386話 燃える馬(3)追跡
その家の近くに止めた車で、僕と直は家を見張っていた。
寒い。暇だ。そして、ここへ来るかどうかわからなくて不安だ。
「もしここじゃ無かったら、まあ、捜査員が消火器を持って張り込んでいるから火事は防げますけど、追跡は無理なんですよね」
刑事の若い方が言う。
「いえ、追跡できる式を用意してありますから、大丈夫ですよ」
「どうしてここを監視対象に選んだんです?」
「棚瀬家だけが集合住宅でしょう。他の家は、消火器を持った警官がいるから、まあ、何とかなるでしょう。でもここは、小火で消したとしても、近所に迷惑がかかりやすい。だから、一番阻止したい家かと」
「確かにねえ。団地で借家ですからねえ」
年配の方は頷いた。
「ご近所さんも、こっちの方が密接みたいですしねえ」
直も言いながら、アオを指で遊ばせている。
と、近付いて来た気配に、体をシートから浮かした。
「来たな」
「だねえ」
「どこですか、どこ」
刑事2人はキョロキョロと窓から空を見上げている。
札が寒空の中をひらひらと飛んで来ている。それが団地のとあるドアに近付き、ボッと火が点き、馬の姿に変わる。
そこへ浄力を叩き込むと、それは力の気配に気付いたのか、ひらりと避けた。
直は辺りに術者がいないか探っているし、刑事達はもしもに備えて、消火器を抱える。
札は一旦諦めたのか、一枚の札に戻ると、ヒラヒラと飛び始めた。
「直、アオ!」
「はいよ」
「チッ!」
僕の目を付けたリボンを首に付けたアオは、「任せなさい」と返事するように一声鳴いて、空へ舞い上がった。これから追跡だ。
「家に被害はありません」
「よし、全捜査員に連絡しろ」
慌ただしく、追跡が始まった。
しかしこれが、なかなか難しい。アオを見ながらは無理だ。向こうは道路というものを無視しているし、小さいから見付けにくい。僕の付けた目を通して、「コンビニの角を左に」とか「右側に小学校が見える」とか言うのだが、視界が揺れ、曲がる予兆無しに急に曲がるので、酔う。もう、もの凄く気持ちが悪い。
「怜、大丈夫かねえ?次は酔い止め、いるかねえ」
「ありが――うっ。……じ、神社に……ああ、やっと終わるのか?」
どうやら札は神社へ下りていくようで、追跡劇が終わる事に、ホッとした。
札はひらひらと境内に降りて行き、境内の隅の木の枝に引っかかった何かに同化したようだ。アオのとまった枝からは少し距離もあり、そこまでハッキリと確認はできなかった。
「市役所の前の神社です。本殿に向かって右の方の木の枝に戻りました」
「了解です」
捜査員は張り切って答え、すぐに他の捜査員にそれを知らせる。
グッタリとしながら見張っているうちに、神社に着いた。
夜中に近く、参拝客は、流石にもういない。
「あった」
「チイッ」
パタパタとアオが直の肩に飛んで来る。
「アオ、お疲れ様あ。良くやったねえ」
「チチッ」
アオが胸を張る。
その間に、僕は気配から、それを見付けていた。
「これか」
木の枝に引っかかっているのは、くしゃくしゃになった札と、お守りだ。それが絡まるようになっていて、果物の皮が所々くっついている。
「ああ、カラスか。札とお守りと果物の皮が絡まってたのを、納所に入り込んだカラスが食べ物だと思ってここへ運んだ。でも、皮以外は食べられなくて、放置されたんだな」
「果物の皮なんて納所に?」
「ゴミ箱代わりに何でも入れるって、問題になってるそうですよ」
捜査員達は、
「罰当たりだなあ」
などと驚いていた。
「それにしても、それがここにあるのはともかく、それがどうして放火を?」
「実際に訊いてみましょうかね」
僕はそれを、突いた。
すると、それからふわりと半透明のものが出て火がボッと点き、馬の姿になる。
「随分、好き勝手やってくれましたね、正月から」
それは足を掻くようにして、首を振った。
捜査員の目にもしっかり見えるようで、彼らは警戒しながらも、戸惑ったようにそれを見ていた。
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