第384話 燃える馬(1)連続放火

 正月三が日は、どこの神社も歩きにくい程混んでいる。それでも来たのは、何が何でも一般入試に合格しなければ、困るからだ。お参りしておこうと家族に言われ、出て来たのだ。

 しかし、お参りしていたにもかかわらず、去年の秋の推薦入試には落ちてしまった。良く考えれば、この神社はご利益が無いんじゃないのか、と柊木邦明ひいらぎくにあきは思った。

 しかし、並んだ列は古札納所にまで来ており、ポケットの、役に立たなかった学業守りと古い火除け札をクシャリと握り潰した。

 役立たずじゃないか。今度こそ、役に立ってみろよな。

 思いながら、納めるというよりは腹立たし気に投げ込むようにして、それを納所に投げ、本殿に向かう人の列に加わった。


 例年通り手作りのおせちでご飯を終え、リビングで家族揃ってくつろぐ。

「去年は色々あったなあ。今年は、平穏無事に過ごしたい。試験もあるし」

 御崎みさき れん、大学3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「そうだなあ。

 それはそうと、司法試験はどうするんだ?取っておけば邪魔にもならんし、受けておいたらどうだ」

 御崎みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

「確かに、資格とかはあっても邪魔にはならないしな。それに、世の中何があるかわからない。うん。受けておこうかな。夏までしばらくは霊能師の仕事は休ませてくれって言ってあるから、時間はあるしね」

「協会経由でなくとも、向こうから来たりしてね」

 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。

「縁起でもない、冴子姉」

 僕達が笑った時、甥のけいがタイミングよく笑って、皆、和やかな空気に包まれた。

 が、そこに電話がかかって来る。兄の電話で、どうも、事件らしい。

 案の定、電話を切った兄は、警察官の顔をしていた。

「どうも連続放火らしい。幸い、小火程度だったがな。

 だが、長男が『燃える馬が来た。火の馬が家を燃やすのを見た』と言っているそうだ」

 言いながら、着替えに部屋へ行く。

「ヤバい薬かしら」

 冴子姉は敬のオムツを替えながら言った。

「火事の原因第1位が放火っていうのが信じ難いよ」

「ああ、それ。耳を疑うわよね」

 言っている間に兄が着替えて出て来た。うん、カッコいい。

「気を付けて」

 敬を抱きながら、冴子姉と玄関まで送りに行く。

「戸締りや火の元に気を付けてな」

「いってらっしゃい」

 まさか元日から仕事とは。

 しかしこれが、僕にとっても今年の初仕事になろうとは、この時はまだ、予測範囲外だったのである。

 





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