第383話 ハーメルンのサンタ(4)きゃりーぱみゅぱみゅ新春シャンソンショー

 シエルは、部下らしい人物を従えて立っていた。

「久しぶり。これもだめだったかあ」

 傍の男が、唸る。

「樹海といい、ゲームといい、今回といい、よくもまあ、毎回邪魔をしてくれる。自信が無くなるのお」

「ふうん。あなたがこの札の」

「獄炎という。よろしくな」

 直は、裂け目から覗き込みながら、フンと鼻を鳴らした。

「それにしても、まさか怜が混ざり込むとは……しかもその恰好……」

「う……」

 シエルは面白そうな顔で写真を撮って、笑った。

「いやあ。どうやって小さくなったんだい?」

 小さくなったのは、術には含まれてはいなかったらしいな。

「お持ち帰りしたくなるじゃないか」

「無理だな。シエルが戻って来るなら、遊んでやるぞ」

「んん、困るなあ」

 シエルは苦笑を浮かべた。

「あれは、飢えて死んだ死者の霊だろ」

「そう。日本は食料を捨てるほどに有り余ってる国だから、食べたら美味しいんじゃないかってね」

「……それは僕も、何とかすべきだと思うが」

 僕は溜め息をついた。

「上手く行かないもんだね」

 シエルも溜め息をついた。

「まあ、この札使いの獄炎は、今回から賛同してくれて仲間になったんだよ。1人戦力が増えただけ良しとするかな。

 じゃあ、またね。怜、直」

 シエル達は手を振ってこの場から離れて行き、僕も嘆息して、次元の裂け目を潜った。


 戻るとそこは自宅で、14人の子供達は、協会の霊能師に保護されてぴいぴい泣いていた。

「取り敢えずは良かった」

 ホッとしたように、順番に協会の皆が声をかけてくれる。

 そして兄と冴子姉が、泣き笑いのような表情を浮かべた。

「お帰り」

「ただいま」

「夜遊びは禁止なんだがな」

「ははは。ごめん、ごめん、兄ちゃん。直も、サンキュ。流石相棒」

「へへへ」

「とりあえず、お風呂入ってきてもいいかな。涎と血が……」

「そうだな。康介も硬直してるしな」

 康介はと見ると、僕の物凄い格好に、言葉も無いらしい。

「京香さん。この服、もうダメかも」

「ばかねえ。いいわよ、そんなの。いいから早く、いってらっしゃい」

「怜、1人で入れるのか?兄ちゃんも行こうか?」

「中身は大人だじょ――あ、噛んだ」

 言いながら風呂場へ行くが、シャワーに届かない。仕方なくフックにヘッドをかけたまま何とか湯を出すと。

「滝行かっ!?」

 3歳児の一人入浴は無理だと分かった。

 よろよろとして手を突いたら、ボディシャンプーの上だったので、勢いよく中味が出る。

「ゲッ!?」

 と思ったら、踏んで、クルリと視界が回って天井が見えた。


 その頃、康介は恐る恐る訊いていたらしい。

「あれ、怜君?」

「そうよ」

「違う。元の怜君の方がいい」

 涙目になって、べそをかく。

 と、風呂場で音がした。

「ん?今何か音がしたな――まさかっ!怜、大丈夫か!溺れたんじゃないだろうな!?」

 兄、直、冴子姉、京香さん、康二さんが走って来る。

 そして、僕は、風呂場で転倒している所を発見された。

「怜!?あ!!」

「痛た。兄ちゃん。ボトル類の置き場所は変えた方がいいかも。敬が手をついたら危ない」

「そ、そうか。その頃になったら、変えよう」

 兄は同意して、

「怜、戻ってるぞ」

と言った。

「へ?あ……赤巻紙青巻紙黄巻紙、きゃりーぱみゅぱみゅ新春シャンソンショー。おお、戻ってる!」

「いや、どういう確認の仕方かねえ?」

「いやあ、幼児だと舌が回らなくて」

 苦笑する僕に、直が笑う。

「いや、見た目で戻ってるしねえ」

「ああ、そうかあ。そうだ……ぎゃああ!閉めて!ドア!冴子姉と京香さん、あっち!」

 げらげらと笑う皆と元通りの僕に安心したのか、康介が嬉しそうに飛び込んで来る。

「ぼくも怜君とお風呂!」

「はいはい。

 それはそうと、3歳児になったの、康介かも。怜君が同じくらいの年なら、学校に行かなくて、ずっと一緒に遊べるのかって訊いてたから。それがチョコに変に影響したのかも。あんなに握りしめて溶けてたから……」

「ああ。あり得るなあ」

「ああ、怜。支部長が詳しい報告書を書いてくれって言ってたよう」

「……面倒臭いなあ。まあ取り敢えず、康介、一緒にお風呂入るか?」

「入る!」

 やれやれだ。報告書かあ。面倒臭いなあ。シエルの事も、後で考えよう。

 戻れた事にひとまず安心して、僕は康介と数を20まで数える練習をしながら、入浴をした。





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