第382話 ハーメルンのサンタ(3)3歳児の戦い

 洞窟の奥、他の子供達の後ろに隠れて、僕はこっそりと、溜め息をついた。

 パスはなかなか通じないが、根気良く、試している。

 と、不意に直の声がした。

『怜、怜』

『おお、つながったな』

『無事かねえ!?』

『今のところはな』

 そして、ここへ至る経緯を話す。

 直によると、やはり、チョコレートを貰って、言われた通りにその日のうちに食べた子が14人と、僕にくれた1個だったらしい。そして、その14人は同じように忽然と姿を消しているらしい。

 残ったチョコレートを回収して調べたら、この異界とつながるパスが練り込まれていたようだ。極々弱く、善意のプレゼントという感情でコーティングされ、割ってみて初めてわかったくらいのものらしい。

 因みに大人で食べた人は他にいないらしく、なぜ僕が3歳児になったのかはよくわからない。自動的にそうなるようになっていたのか、他に何かあったのか。

『わかった。じゃあ、ここから脱出だな』

『ただ、次元の裂け目があまり大きくならないんだよねえ。それこそ子供くらいだねえ』

『そうだなあ。まあ、子供は今、鬼ごっこをしていて牢屋に集められてきてるから、かえっていいかもな。合図したら、僕のいる所に開けてくれ。できるか』

『OK。いつでもいいよお』

 直と話している間に、最後の子供が捕まったらしい。

「15人、全部捕まえた」

 その子が牢屋に入れられて来る。

 今だ!合図を出す。すると、洞窟の奥で空気が揺らめき、次元の裂け目ができた。

「皆、あの向こうへ走れ!家に帰れるじょ!」

 噛みつつも言うと、子供達はキョトンとし、次いで、裂け目の向こうの直や兄や京香さんを見て、一斉に走り始めた。

「貴様っ!!」

 鬼が、僕を睨みつける。

「怖くないもん!」

 いかん。言動が体の年齢に引っ張られる。

 僕は右手に刀を出した。そして、構えて走れずに、派手に転んだ。

 だめだ……。


 鬼は怒って、メリメリと鉄格子を引き抜いた。

「俺のプレゼントを返せぇ。いや、まずはお前から食ってやる」

 捕まえようと伸びてくる手を躱して奇蹟的に逃げる。

 しかし、ヨタヨタ、フラフラとして足元が覚束ない。しかも、こちらに比べて鬼の大きさが大きい。

「まるで、一寸法師だな」

 鬼の足の間をすり抜けて、かかとに斬りつけながらぼやく。

「ああ、腹が減った。くそっ」

 鬼は唸って、ヒョイと僕を掴み、目の高さまで僕を持ち上げる。

「怜!?」

「ああ、くそっ!!」

 直と兄の声が後ろでする。

「お前は一体何なんだよ」

「日本は食べ物が余って、たくさん捨てている。だから、日本の子供はたっぷり食ってて美味いって聞いた」

「誰に?」

「大いなる蛇。ヨルムンガンド」

 ギクリとした。

 そして、鬼は嗤って、大きく口を開け、僕を舌の上に乗せた。

「怜ーっ!?」

「バカめ」

 僕は刀を出して、思い切り舌に突き立てた。

「ぎいええええ!?」

 すると、思い切り、吐き出される。

「ぎゃああ!!落ちる!!」

「怜!掴まれ!」

 直の札が見え、そこに掴まると、無事に地面に降ろされた。

「汚いな。涎と血塗れじゃないか。この服は京香さんから借りた、康介の服なのに」

 溜め息が出る。

 鬼は口の傷からばらばらとほどけるように崩れていた。どうも、霊の集合体だったらしい。そして、端から順に灰になっていく。

「あ」

 そこに、1枚の札が残る。

 それを拾って来て、直に見せた。

「直、これ」

「また、だねえ」

 樹海やゲームと同じ術者だ。

「ヨルムンガンドって言ってたな」

 僕と直が彼、シエルの事を思い出していると、そこに新たな人物が現れた。

「シエル!」

「やあ」

 シエル・ヨハンセン。友人だと思っていた、ヨルムンガンドの代表者がそこにいた。



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