第381話 ハーメルンのサンタ(2)鬼ごっこ

 子供は全部で15人だった。年齢は、幼稚園児くらいから3歳くらいまで。この子供達が、今日公園でチョコレートを貰って、それを今日中に食べた子だろうか。

 僕は地面に降ろされ、近くの子に寄って行った。

「チョコレート、食べたの?」

「食べたよ。美味しかったね」

 何の恐怖も抱いていないらしい。

 危機感のけつりょ――ああ、言えない――欠如だな。

 そこは岩山のようなところで、暗い洞窟や、大きな木、岩があった。異界の空間だろう。

 サンタは僕達を見下ろしていたが、真っ白なひげや眉、大きな帽子で、表情が全く見えない。

「ここどこ?ゲームは?」

 1人が言いながら、辺りをキョロキョロとしだす。

「ゲームは無いよ」

 サンタは言って、僕達を眺めまわした。

「鬼ごっこをしよう」

「鬼ごっこ?」

 サンタが、嗤ったのがわかった。

「サンタさんが鬼だよ」

 そう言うサンタの体がメキメキと大きくなっていき、サンタの衣装が破れていく。それを子供達は、あっけにとられたように見ていた。

「あ……」

 隣の子供が、恐怖のあまりおもらしした。

 それは、どこから見ても、鬼だった。

「節分には早いよ」

 言うと、鬼は僕を見て、ニイーッと嗤う。

「いいんだよ。美味しそうな子供達の肉が、俺へのクリスマスプレゼントなのさ」

 誰かが泣き出した。

「どうやったら、僕達の勝ち?」

「ん?そうだなあ。あそこの洞窟の入り口のところに石が転がっているだろう。あれを、6個重ねたら君達の勝ちだ」

「家に帰れるのか?」

「そうだよ。さあ。10数えたら、鬼ごっこを始めるよ。捕まったら、俺のご飯になるからね。ふっははは!

 行くぞ。いーち、にーい」

 子供達は、慌てて皆走り出した。

 僕は近くの大きい子に手を引かれてヨタヨタと走り出した。

「さーん、しーい」

 頭隠して尻隠さず状態の子とか、木の陰にしゃがんだだけとかいう子もいる。

「ごーお、ろーく」

 僕は岩の陰に引っ張り込まれて、しいーっとされた。

「しーち、はーち」

 この子は、見どころがあるな。

「くーう、じゅう!」

 しかし、中味が大人な僕としては、このまま隠れ回っているわけにはいかない。どうにか反撃のチャンスを掴まなければならない。

「どこかなあ。美味しい匂いがするぞ」

 鬼の楽しそうな声がする。

 緊張に負けて、走って逃げ出そうとした子が出た。

「ほい、捕まえた」

「ぎゃーっ!!」

 鬼はその子を、洞窟へと連れて行く。そこの入り口には鉄格子が嵌り、上の高いところに開いた穴から子供を出し入れするらしかった。

 すぐにその場で食べるわけじゃないようだ。

 僕は兄や直にパスをつなげないか試しながら、鬼ごっこにいそしんだ。

 鬼がうろうろしている隙に、大きい子が石を積みに行く。だが、なかなかうまく詰めないようだ。石積みに熱中している内に、あっさり鬼に捕まって、洞窟の牢屋に入れられた。

 子供達はそれなりにこれを遊びだと思ったらしく、捕まっても笑っているし、キャッキャと笑いながら走って逃げている。

 その隙に石積みに挑戦したのだが、5つ目で鬼が近寄って来たので、慌てて逃げた。鬼は石をガラガラと崩す。

「賽の河原かよ」

 ヨタヨタとして、真っすぐに走る事すら難しい。

「あ」

 そして、すぐに転がる。

「う……」

「泣いちゃダメよ!」

 泣かないもん!


 何度石積みにトライしたか。

 子供達は10人が既に捕まっている。

「唐揚げ、刺身、塩焼き、煮物。いいなあ」

 鬼は涎を啜り上げた。

「捕まったら本当に食べられちゃうんじゃない?」

「まさか」

「でも……」

 年上の子が、僕を挟んで喋っている。

 と、

「みいつけた」

 鬼が、岩の向こうから、ニュッと顔を出す。

「ぎゃああああ!!」

 ずっと僕の保護者よろしくついていてくれた子は、絶叫して、僕を鬼に突き出した。

「え?」

 何て子だ。見どころがあると思ったのに、いざという時のための盾だったとは。ロクな大人にならんぞ、このクソガキ。

 呆然とする思いで、鬼の前に転がり出た。額を地面に打ち付けて、かなり痛い。

 鬼は、後ろの大きい子を見て唸った。

「人間らしいと言えば人間らしいがなあ。サンタさんは、そういうの、嫌いだなあ」

 言って、鬼は後ろの大きい子に手を伸ばし、摘まみ上げた。

「何で私なのよう!あっちのチビが近いのに!?」

「鬼としてはそれが素直だと思うが、サンタさんとしては、いけない子だから罰を与えないとなあ」

「ばば罰って何よ」

「そうだなあ。踊り食いかな」

「踊り食い?踊りながら食べる事?お行儀が悪いわ」

「違うよ。生きたまま食べる事さ。生きたままだと、痛いから、暴れるだろう?それが踊ってるように見えるんだよ」

「ヒイッ!」

 ニタァと嗤う鬼に摘まみ上げられて、その子は、盛大に洩らした。

 そして鬼は僕を見て、訝しむ様に首を傾けた。

「君は、何か違うなあ」

 ばれたか?ここは3歳児らしくしないと。

 しかし、おもらしは流石にプライドが許さない。

「う……うわあああん!」

 泣いておいたら、納得したのか、牢屋へ入れられた。

 やれやれ。

 僕は、マンガでお馴染みの例の名探偵に、苦労してるんだな、と少し同情したのだった。





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