第370話 幽霊屋敷(2)お宝発掘
門の外に出て辺りを見るが、誰もいない。道を挟んだ向こう側は雑木林で、この家の左右は畑だ。人は見当たらない。
「あ、手形や!」
声に振り返ると、門の横に伸びるブロック塀に、赤い大人の手くらいの大きさの手形が1つ付いていた。
「手形だねえ」
「赤いな」
僕と直は、首を捻った。
と、今度は辺りをビクビクと見廻していた楓太郎が、素っ頓狂な声を上げる。
「うわわっ!あれっ!」
指さす方を見ると、雑木林の中を、白いものが一直線に真横に飛ぶように移動するのが見えた。
「あんなに早く走れる人なんかいないよ」
真先輩が、声を潜める。
「それに、足音もせえへんかったで」
智史も、僕と直に、心なしか寄って来る。
「こうなんです、いつも」
「手形は勝手に消えるし」
夫妻は、完全にビビっている。
僕と直は、内心で失笑した。
「宗、楓太郎。お前らはわかったか、このトリックが」
僕、直、宗、楓太郎以外は、不意を突かれたような顔をする。
「はい!白い影は、白い物であって、人でもないです。雑木林の中に、釣り糸か何かで仕掛けをすれば簡単ですよね!」
「手形は、インクではないでしょうか。インクを付けた手で手形を付けてチャイムを鳴らし、その辺に隠れる。そして今度は、白い影を動かしたのでは」
「よし。文化祭の教訓が生きてるな、2人共」
褒めると、宗と楓太郎は、嬉しそうに笑った。
「ちょ、ちょっと待って。インクにしても、消えるんだよ?」
真先輩が言うのに、直が言う。
「先輩だって使ってるでしょう?消えるボールペン」
「あ……」
「65度くらいになると色素が消失し、冷やすとまた色が出て来る、あのインクですよ。気味悪がって家に村木さんが入ったら、温めればいい。
その辺にいる筈ですよね。外れてますか」
ガサッと、雑木林の中で音がした。そこへ宗と智史が向かうと、慌てて誰かが立ち上がり、逃げ出そうとして、転んだ。
「もう1人いました!あそこ!」
楓太郎が、白い影の消えた辺りを目掛けて走って行く。
やがて、項垂れた2人が雑木林から連れ出された来た。
「詳しい事を聞きましょうかねえ」
直は、家へと皆を促した。
2人は40代くらいの男女で、金田和夫と谷本美代子と名乗った。
「この家の前の持ち主、金田せんの孫です」
キョトンとする皆の中で、真先輩が、ああ、と言った。
「売った後で、何か隠してあったとか言われて、取りに来たんですね。あるんですよね、たまに」
2人はその通りなのか、悄然としている。
「金田家の大事な物が埋まってると、先に死んだ爺さんの残した物に書いてあるのを、遺骨を墓に収めに行って見つけて。それで掘り出したかったけど、もう、家は売れて、誰か住んでるし。幽霊騒ぎで追い出して、掘ってしまおうと……。
平日は仕事があるし、土曜日が都合が良くて。すみません」
村木夫妻は、あんぐりと口を開けて呆れていた。僕達もだ。
「お願いします。探させて下さい」
「うちは子供が留学したいとか言い出すし、妹のところも親が軽い介護状態に入ってしまって」
金田さんと谷本さんが、頭を下げ、村木さん夫妻は顔を見合わせた。
「まあ……ねえ」
「ああ……。
で、場所はわかってるんですか」
金田さんと谷本さんは勢い込んで頷く。
「はい!」
「じゃあ、いいか」
「ありがとうございます!」
嬉々として手を取り合う4人を見ながら、僕達はこそこそと話していた。
「なあ、肝心な事、話してへんよなあ」
「うん。どっちのものか、もめるんだよねえ」
真先輩が嫌そうな顔をする。
「でも、部外者としてはワクワクしますね!」
楓太郎は、好奇心いっぱいという顔だ。
「何が入ってるかわかってるんでしょうか」
宗は、警戒している。
なかなか面白い。
「家にとって大事な物、だからねえ。初代の立身出世の記録かも知れないし、お金かも知れないしねえ」
「いやあ、楽しみだな」
僕達は揃って、それを埋めてあるという玄関脇の梅の木の所へ行き、掘り返した。
1メートル近く掘った時、金田さんがそれを発見した。
「壺が出て来たぞ!?」
「小判!?骨董!?」
まずはそれを持って金田さんが穴から出て、それを皆で囲む。
ここで、村木さんが待ったをかける。
「うちの敷地から出て来たんだから、当然うちの物よね」
これに、金田さんと谷本さんが猛反発する。
「そんなわけないでしょう!?うちの祖先のものなんだから!」
「そうよ!」
真先輩が、
「始まった」
と呟く。
「先輩。こんな時はどうなるんですか」
宗が訊いて、その声に、もめている4人がこちらを見た。
「まず、警察に遺失物届を出さなくてはいけません。それから、金田さん達は、それが先祖の物だという証拠を出さないと金田さん達の物にはなりません。その証明ができたら、警察に保管料として10パーセント程渡し、村木さんに5パーセントから20パーセントを支払って、それで金田さん達の物になります。
誰の物かわからないとなれば、地主と発見者で折半ですけど」
4人の間で、火花が散ったようだった。
「墓にこれの事が書いてある日記があったから、祖先の物だという証明はできますよ。ねえ、兄さん」
谷本さんが、勝ち誇ったように笑う。
「5から20パーセントか」
「幅があるのね。でも、まあ、仕方ないわね」
村木さんが残念そうなのを隠して言う。
「まあ、どのくらいのものが入っているか……」
金田さんはそう言って、頭が入るくらいの大きな壺に被せてあった油紙と粘土の蓋を外し始めた。
「さあ。何がでるかな」
全員が、興味を引かれてそれに注視する中、蓋が取れた。
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