第369話 幽霊屋敷(1)律儀な幽霊
冷たいお茶を冷蔵庫から出して各々の前に置き、弁当箱を開ける。カニカマときゅうりとサラスパのサラダ、ブロッコリー、うずら卵とプチトマトをつまようじに刺したもの、ささ身チーズカツ、人参しりしりをギョーザの皮のカップに入れたもの、ホーレンソウの薄焼き卵巻き、さつま芋のレモン煮、カリカリ梅と青じそのごはん。
ギョーザの皮を容器に器型にして入れ、レンジに20秒もかけると、そのままの形で固くなり、食べられる器になるのだ。
「おお。今日もまた、美味そうな」
僕の弁当箱を覗き込んで、智史が言う。
夏休みは実家に帰っていたが、こきつかわれていたとぼやいていた。
「相変わらず、まめだねえ」
「えへへ。早く甥にも作ってやりたいんですけどね」
また、無眠者という世界でも珍しい体質で、1週間に3時間程寝るだけで済むので、夜の間、暇なのだ。今はそれが甥の
「いいなあ、敬。味覚は小さい頃に何を食べたかによって決まるとか言うよねえ」
「俺もちょっとは自炊の練習をしてくるべきやったわ」
「家庭科の調理実習ですら女子任せだったから、自分も自炊だったら、困ってたクチですね」
「ぼくもだなあ。お母さんに感謝しないと。
でも、敬君がうらやましい」
楓太郎が言った。
「ボクも自炊だったら、毎日素麺か怜の家に行くかもしれないねえ」
直も言いながら、笑う。
これが、心霊研究部のメンバーである。
昼は部室で集まる事が多く、各々お弁当を準備してくるのだ。真先輩と智史以外は自宅通学なのと、学食は混んでいるので部室が楽なのとで、こうなった。
「ぼくは1人とはいえ、宅配のお弁当だからね。レンジで温めるだけ。レトルトとインスタントラーメン専門だなあ」
真先輩はあははと笑い、続けた。
「そうそう。うちの仲介した物件で今トラブルがあってね。幽霊が出るって急に言い出したんだよ。怜と直に頼もうと思ってたんだけど、皆で行かないか」
真先輩が言い出した。
「幽霊ですか」
「うん。この前までそんな話はなかったのに、いきなりなんだ。それも、土曜日の夜限定で」
「変なやつやなあ。嘘っぽいで」
「うん。でもまあ一応、本当にいるのかどうか、視て欲しいんだけど」
「わかりました。次の土曜日に」
そして僕達は、幽霊屋敷に行く事になったのだった。
問題の家は郊外にあり、老婆が1人で住んでいたのだが、冬に亡くなったそうだ。そして遺産相続の為に売る事になり、真先輩のお母さんの会社が買って、別の人に売ったものだ。
行ったはいいが、視たところ、幽霊がいる様子はない。確かに近くには封じられたものはいるが、封じられていて、これが出たとは考えにくい。
「おかしいな」
「うん。これは心因性とか気のせいかねえ」
コソッと、相談する。
住人である村木さん夫妻は怯えていて、とても、面白半分のデマなどではなさそうだ。
「血の手形が付いてたり、白い着物の幽霊が空を飛んだりするんですよ」
「手形ですか」
「門の所に。でも、すぐに消えて」
「それに、前の林の中を、幽霊が凄い速さで横切るんですよ。こう、すうーっと真っすぐ」
夫妻は行って、肩を抱いた。
「手形と、飛ぶ幽霊ですか」
今の所、何も起こらない。
「まあ、夜を待ってみましょう」
僕達は、庭に面したリビングで待つ事になった。
辺りは暗くなり、近くに民家の無いこの辺りは、人通りも完全に絶える。
と、ピーンポーンとドアチャイムが鳴り、夫妻は飛び上がった。
「さあて」
僕達は、門を確認しに行った。
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