第359話 心霊特番・ゾンビプリンセス(4)姫と家臣

 固まって震えていた家族、足が弱って早く移動できないお年寄りを見付けた後、駐在所の警官と合流できたのは幸いだった。

「ゾンビは、もう元には戻せません。躊躇したら、犠牲者が増えるだけです。威嚇とか説得とか、考えないで下さい」

 そう釘を刺して、警官に彼らを託してお寺に向かってもらう。

 島内を更に回って、ゾンビ化した島民を斬り、家々を訪ねて、残っている人がいないか確認して回った。

 これで最後だと思われる無事な島民を連れ、お寺に向かう。

 と、中の1人が、突然あるゾンビを見て声を上げた。

「修ちゃん!あの、恋人なんです。修ちゃんは大丈夫だから、一緒に行っていいですよね。ほら、傷だってあんなに小さいし」

 これに、他の島民達はギョッとした顔を向けた。

「え、大丈夫じゃないだろう?」

「大丈夫よ。ほら、襲って来ないじゃない」

 確かに、少し先で体を揺らしながら、ゆっくり近付いて来るだけだが。

「いや、だめです。大丈夫の根拠にはなりません」

「大丈夫だって。ほら」

 言うなり、彼女はその恋人だったゾンビに駆け寄り、振り返って笑った。

「ね?あ……」

 恋人だったゾンビは、彼女に食らいついて、肉を食いちぎり、笑った。

「う、そ……」

 彼女はずるずると滑り落ち、地面の上でグッタリとした後、ビクンビクンと痙攣発作を起こしたようになり、髪を振り乱して起き上がった。

「ああ……」

「もう、楽にしてやってちょうだい。修君と一緒なら幸せになれるでしょう」

 おばさんに拝むように言われ、息ピッタリに飛び掛かって来た2人を、斬る。

「ごめんねえ。若いのに、こんな役を押し付けちゃって」

「いえ。それより、急ぎましょう」

 集団を急かしてお寺へ急ぐ。

 階段の下へ来たが、そこで足を止めた。

「ゾンビが……」

 閉じられた門の前に、ゾンビがいる。

「寺も危ないんじゃないか?」

「大丈夫です。例え門が開いていたとしても、僕の相棒は、皆を守り切りますから」

 直の事だから、そっちの心配はしていない。

 問題はこっちだ。門の前に、生き残りの武士のゾンビ3体と綾姫のゾンビが、島民2人を従えていた。

「あれをおびき寄せられたら、その隙に門の中へ駈け込んで欲しいんですが」

「何とか、まあ、走ってみるか」

 中高年は、悲壮な面持ちで頷いた。

 取り敢えず彼らを階段から少し離れた所に隠し、階段を上って行って、斬りつける。

 綾姫を狙ったのだが、武士のゾンビに気付かれて腕を引かれ、着物にかすっただけになってしまったのだ。

「映画と違って、いい反応?」

 言葉を発する声帯などは使えないのか、無言で、怒りの空気だけを示して来た。

「怒ってるよなあ」

 僕は踵を返して、階段を駆け下りた。ゾンビの集団を引き連れて。

 ああ、筋肉痛になりそうだ。

 そして僕達が階段を駆け下りて少し先へ行ったのを見て、島民が階段を駆け上って行く。

 気付いたゾンビの何体かが追おうとするが、その背中を斬って階段との間に入り、宣言する。

「悪いが、通行禁止だ」

 綾姫と武士のゾンビ3体。

 水分を吸収したせいか、ミイラの時よりも、カサカサした感じがましになり、幾分かふっくらとしているようにも見えた。

 そのせいか動きが思ったよりも滑らかで、本堂にしまってあった彼らのものとされている日本刀を、隙なく構えている。

 綾姫を背後にして、武士3体が前に出る形だ。

 左からかかって来た――がフェイントで、刀を上段に振り上げて一歩足を出しただけだ。本当に出て来たのは右のやつだった。

 小さな動きで軌道をずらして刀を払い、胴を振り抜く。

 左がその時には斬り上げて来ているので、そのまま前進して首を突き、横に払う。皮一枚でつながったままどうと倒れ、乾いた音を立てて首が折れ、頭が転がる。

 残った武士は1人で、あとは綾姫だけだ。

 武士は刀を下段からゆっくりと正面にやった。綾姫は、懐剣を構えている。

 静寂の中、いきなり武士が斬りかかって来、払うとすぐに太刀筋を変えて、再度斬りかかる。

 細かく移動して、位置を入れ替え、何合か受けあう。

 やはり水分不足が祟ったのだろう。武士の腕がボキリと音を立てて折れた。

 ギョッとしながらも、振り始めていた刀をそのまま振り抜くと、武士は膝をつき、ゆっくりと倒れかかった。

 それを綾姫が支えると、一度こちらを見上げ、武士と見つめ合い、懐剣を己の胸に当ててしっかりと武士を抱きしめると、ズブズブと懐剣が胸に差し込まれて行く。

 そしてそのまま、動かなくなった。

 死んだのか。いや、とっくに死んでたか。

 視ると、霊が2体、体から抜け出して来た。


     家の再興、体がいる、家を


     生者が憎い、勝者が憎い、恨めしい


 家臣達の霊も、集まって来る。

 それに、ゾンビに噛みつかれ、僕が斬った人達も、納得できていない。

 ああ、これは、早く祓わないとダメだな。

 僕は島中に行き渡らせる勢いで、浄力を放出した。

「おおーい、れーん」

 直が上から走って来る。

「ああ、直。疲れたぁ」

「お疲れ様ぁ。上で、説明をしないと」

「……この階段、さっき走って上り下りしたところなのに……。しんどい。そして面倒臭い」

 僕達は、長い急な階段を見上げ、溜め息をついて、仕方なく上り始めた。


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