第358話 心霊特番・ゾンビプリンセス(3)生者対死者

 札を直が回収し、僕と直とでまず話し合う。

「ゾンビは14体いた。7体は現代人の服装だった」

「やっぱりうつるんだねえ」

「警察と協会に連絡しよう」

 しかし、電波が届かないとかで、携帯が通じない。なので固定電話を取り上げてみたが、電話線が断線しているらしく、ウンともスンとも言わない。

「まあ、兄ちゃんにパスは通じるから、兄ちゃんから知らせてもらおう。

 後はこっちだな」

 言いながら、とにかく兄に事の次第を伝えて、後は頼む。

 現状を報告したら、皆絶句していた──カメラさんは相変わらず冷静だったが。

 まあ、パニックになって暴れたりされるよりはましだろう。

「襲われないように籠城する必要があります。それと、まだ無事な人を助けないと」

 宿の人に話すと、初めは信じてくれなかったが、受話器を耳に当て、表を通りかかったゾンビと化した島民を見て、青くなった。

「どこか、襲撃されても大丈夫そうなところはないですか」

「お、お寺ね」

「寺……」

 あそこからゾンビが来たと思うと、躊躇してしまう。

「入り口は一ヶ所だし、門は分厚くて丈夫だから」

「そこにしましょう」

 嫌そうな顔の皆に、寺へ移動する事を告げる。

「皆を安全に寺へ避難させてくれるか、直」

「怜は」

「無事な島民を探す」

「危ないよ!」

「でも、避難場所の確保は絶対に大事だし、島民の被害も抑えないと。

 大丈夫だって。やばそうになったら、全力で何とかするから」

 直は渋々、寺への避難を引き受けた。

「ちょっと、大丈夫でしょうね」

「心配ないって」

「無いわけないでしょ!」

 美里は怒り出したが、直に先導されて、皆と一緒に寺へ向かった。

「さて、行くか」

 島民は現代人だが、ミイラのうちの6体は戦国時代の武士だ。戦闘には慣れていると見るべきだろう。

「映画だと、動きは遅いんだけどな」

 無事な島民を探すべく、僕は走り始めた。

 

 バットを持った人が襲い掛かって来る。見ると、首や胸の肉が齧り取られた中学生くらいの子だったので、浄力を当ててみた。

 しかし、大して変化が見られない。可哀そうだが、刀でバッサリと斬るしかなさそうだ。

 斬り、次を探す。

 悲鳴がしたので店に飛び込むと、小さい女の子を連れた若い女性が、ナタを持ったゾンビに襲われていた。それに飛び蹴りをして吹き飛ばすと、

「子供の目を塞いでおいて下さい」

と言い置く。

 やっぱり、幼稚園へも行ってない子にまで、ろくでもない光景を見せるのは忍びない。

 若いお母さんが子供を抱いて丸くなるのを横目にゾンビを斬って、お母さんに、

「霊能師の御崎と申します。大丈夫ですよ。無事な人はお寺に避難しています。もう少しまとまったら寺へ行きましょう」

と話しかけて立たせると、背中でゾンビを隠しながら店の外へ出る。

「なんなんですか、これ」

「ゾンビですね。原因などはまだ皆目。でも、警察にも知らせましたし、助けが来るまで、こちらの指示に従って下さい」

 言いながら様子を見る。母親は怯えまくっているが、子供は、あまり事態を呑み込めていない様子だ。

 少し進むと、角からゾンビが転がり出て来た。

「ふふふざけるんじゃねえ!!」

 銛を構えた漁師が3人で、ゾンビを撃退したところらしい。

「何やってるんだよう、やっさん!」

「だめだ、化け物になっちまった。諦めろ」

「でも!」

「そうやって、朋子もこうなっただろうが!」

 ゾンビも漁師らしい。だが、もう無理だ。

「下がって」

 横から近付いて、そのゾンビと、忍び寄っていた武士の格好のゾンビを斬る。

「うわあ!」

「霊能師の御崎と申します。今無事な人はお寺に集まってもらっています。そちらに避難して下さい。

 ああ、こちらの方を一緒にお願いします」

 目で確認したところ、今はここからお寺までそう危険は無さそうだし、この勇ましさからだと、何とかなるだろう。

 漁師と母子連れは、急ぎ足でお寺に向かった。

 そして、防災無線の機材のある集会所へ入り込むと、まず戸締りをしてから、マイクを取り上げる。

「こちらは、霊能師の御崎 怜と申します。島民の皆様に緊急のお知らせをいたします。現在島内でゾンビが発生しています。危険ですので、見かけても近付かないようにし、建物の中など安全な所で、救助を待って下さい」

 アナウンスを繰り返し、マイクを切った所で、ドアが派手に叩かれる。

 チラッと見ると、武士のゾンビが2体だった。

「急いで片付けて、終わらせないとな」

 刀を出して、パイプ椅子から立ち上がった。


 寺は門を閉め、無事な人間だけで閉じこもっていた。

 母子と漁師が駆け込んで来るのを上から見て、人間だと合図して門を開け、また閉める。

「どのくらい被害が広がっているんだろうねえ」

 島内に流れる怜のアナウンスを聞きながら、直はその身を案じた。





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