第357話 心霊特番・ゾンビプリンセス(2)うろつく死体
長い階段を上って、寺に入る。美里は根性で涼しい顔をしているが、かなりきているようだ。えりなさんは、きつい、しんどい、暑いと言っている。まあ、そういう役目でもある。
寺は古くて趣があり、中は風が通って涼しい。そして、寺からの眺めは格別だった。
「昔はここに天守閣があったんですが、焼け落ちて、そこにこの寺を供養のために建立したんです。綾姫と家臣達の霊を弔い、ミイラをお守りするために」
住職は良く日に焼けた穏やかな顔で言いながら冷たい緑茶を勧め、皆が落ち着いた頃を見計らって、ミイラのところへ案内した。
本堂の地下に、それはあった。
木の棺に着物をまとったカサカサの人形のようなものが入っているが、それが7つ、安置されていた。
「これが、綾姫」
皆が、一段高い所にある棺を覗き込む。
赤い着物を着たミイラだ。美人かどうか残念ながらわからないが、放送時には『美しい姫』となる予定らしい。
それよりも気になったのは、そこに残る、その気配だった。
えりなさんは、
「うわあ。これが悲劇の御姫様」
と言いながら後ずさり、段差で転びかける。
それを支えた高田さんだったが、えりなさんの肘が鼻に当たり、鼻血が飛んだ。
「わっ、すみません!」
えりなさんとスタッフが慌てて、飛んだ鼻血を拭き取ったり、高田さんの鼻にティッシュを当てたりする。
「家の再興を願った、姫と家臣達か」
残りの6つの棺には、各々1体ずつ、袴姿のミイラが入っていた。
「お家の再興を願いながら、眠りについたそうです。
その後、色々な戦い、天災、戦争もありましたが、いずれもここは被害を受ける事も無く、こうして今に至っております」
住職がそう締めくくり、絵巻物や刀、家系図などを見せてもらいに、場所を移す事になった。
本堂の一階で、絵巻物などを広げ、その前に座る。そこで、住職に訊いてみた。
「御住職。まだあのミイラには、留まっているようですが。いいのですか」
「祓うかどうかした方がいいのか、下では迷いましてねえ」
皆はギョッとしたようにこちらを見たが、住職は穏やかな顔のまま、合掌した。
「ああして守って下さっているので、このままでよろしいかと」
「そうですか。わかりました」
「この島の、守り神みたいなものなんですねえ」
いい話的にこの時は終わったのだが、後で悔やむ事になろうとは……。
その後無事に撮影は終了し、宿に引き上げ、翌日の出発までは自由行動となった。
が、それほど見る所も無い島だし、風も出て来たので、皆大人しく宿にいる事にしたらしい。
「今回は怖くないな」
出演者達が余裕の表情で、甲田さんが難しい表情で言いながら夕食が済み、異変は、その後に起こった。
「何か聞こえなかったかねえ?」
直がヒョイと窓を開け、僕は直と並んで外を覗いた。
「ん?」
旅館の近くの四つ角で、抱き合うような2人組がいた。
しかし、その様子に違和感がある。
街灯の下の2人のうち、片方のTシャツにジーンズを着た方は、上を向いて、もう片方に縋り付くようにして体の力を抜いている。
もう1人の方はボロボロの布を身にまとっており、縋り付いて来るもう1人の肩口に顔を埋めていた。
いや、あのボロ布は、さっき見たな。
「なあ、怜。あれ」
「うん。やっぱりそう思うか、直も」
視線の先で、ボロ布を着た方が顔を上げた。黒いような、細い顔の中で、口元から顎にかけてがベッタリと濡れて、ボロ布ではあったが水色の着物の襟もとには、赤黒い何かが広がっていた。
「あれは有名な、例のヤツじゃないのか?」
「え、どうしたの?」
覗きに来た高田さんは、
「ゾンビだねえ」
という直の言葉とその光景に、後ろにとびすさった。
「ゾゾゾンビ!?」
「シイーッ!!」
窓を閉め、全員、寄り集まる。
「あれ、寺にいたミイラだよな」
ミトングローブが確認する。
「そうよ。家臣の1人」
「ミイラが甦ったの?どうして?」
美里が流石に慌てながら言うが、誰も、その答えは知らない。
「とにかく、今は今後の対応です。あれが1体なのか確認します。それで、警察を呼ぶとか、逃げ出すとか、考えましょう」
「お願いします」
流石に甲田さんも、予想以上の出来事に困惑しているようだ。
直が札を用意し、そこに僕が目をくっつけて、放つ。札は鳥の姿を取って、島の上空を飛び始めた。
「きっと大丈夫。ここは安全よ」
ぶつぶつ言いながらお菓子を食べるえりなさんとミトングローブに、僕は言った。
「それは正常性バイアスですね。現状を受け入れて、動けるようにしていてください。必要以上に怖がる必要もありません。僕と町田は、そのためにいるんです」
まあ、霊はともかく、ゾンビは知らないんだけどな。
不安を隠し、島の様子を見る事に集中し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます