第356話 心霊特番・ゾンビプリンセス(1)フラグを立てる人

 夏休みに入って早々、また、この仕事がやって来た。『心霊特番』。芸能人と一緒に心霊現象が起こる場所を巡り、本当にまずい事が起こりそうになったら、出演者、スタッフを守るという仕事だ。

 今回のロケ地は、小さな島である。

「戦国時代に家の再興を願いながら、姫と家臣が毒を飲んで眠りについたという伝説が残る島か。毒を飲んだという時点で、死んでるよな」

 御崎みさき れん、大学3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「まあねえ。家の再興かあ。新たな人生を始めた方がいいのにねえ」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「それが戦国時代、ロマンとか言うんでしょうね。でも、ばかね。それでどうやって家を再興する気かしらね。本気で再興する気なら、行動しなさいよ」

 霜月美里しもつきみさと、若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。

 小さな船で島へ向かっているのだが、甲板で風に当たっているところだった。

「容赦ないなあ。でも、その通りだけど」

「それに絶対美化されてるよねえ。本当はどうだったんだろうねえ」

「仲間割れとか、悲観して死んだとか、ふぐに当たって死んだとかだったりしてな」

「怜。それはあんまりじゃない?化けて出て来ても知らないわよ」

 話していると、キャビンから、他の出演者たちも暇を持て余したのか、ゾロゾロと出て来た。

「何が化けて出るって?ちょ、ちょ、ちょ。勘弁してよ」

「毎回怖いからなあ」

 ミトングローブ左手右手。若手の人気お笑いタレントで、賑やかし要員である。

「この前も、本当に怖かった」

 グラビアアイドルのえりなだ。きゃあきゃあと怖がる役目である。

「いやあ、この前はマジでダメかと思ったね。うん」

 高田コージ。タレントで、皆のまとめ役である。

「家の再興を願いながら家臣と死ぬかあ。2人が恋人とかそんなだったらロマンチックだわあ」

 ウットリ言うえりなさんに、美里がフンと笑う。

「だったら余計に悪いわ。2人で生き延びるべきでしょ」

 流石、霊否定係だな。

「あ、見えて来た」

 島が遠くに見えて来る。

 僕と直は、ひっそりと心の中で祈った。わかめの妖精もきのこの妖精も出ませんように、と。


 旅館は島に一軒しかなく、民宿という感じだ。部屋数も少なく、例え天下の大女優でも、相部屋である。

「男部屋がここで、スタッフの男部屋がここ、スタッフの女部屋がここ、女部屋がここ。これでいいですね。皆さん相部屋となりますけど、よろしくお願いします」

 ディレクターの甲田さんがテキパキと言って、全員、部屋に入る。

 真ん前に山があり、頂上に寺、そして、それに続く長い階段があった。

「まさか、あれ……?」

「まずいよぅ、怜」

 いつの間にかカメラが回っており、高田さんとミトングローブ左手右手も後ろに立って、ゴクリと唾を飲んだ。

「え、ま、まずい?」

「はい」

 僕と直は大まじめで振り返り、

「あんな長い階段、筋肉痛になりそうです」

と言ったら、高田さんたちは崩れ落ちた。

「あああ、思い出して来た!」

「これ、これだった!」

「筋肉痛か!」

「え?だって、長いですよ?急ですよ?」

 甲田さんが、いい笑顔で親指を立てた。

「それはともかく、今回は伝説巡りで、ここで姫と家臣のミイラを見て、後は山形で座敷童の旅館に泊まって、八甲田山に上って終了でしょ。だから、大丈夫そうだよね」

「高田さん。それ、フラグだから」

 ミトングローブ左手右手が言って、和やかに笑いが起こる。

 そう。それは見事に、フラグとなったのであった。





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