第356話 心霊特番・ゾンビプリンセス(1)フラグを立てる人
夏休みに入って早々、また、この仕事がやって来た。『心霊特番』。芸能人と一緒に心霊現象が起こる場所を巡り、本当にまずい事が起こりそうになったら、出演者、スタッフを守るという仕事だ。
今回のロケ地は、小さな島である。
「戦国時代に家の再興を願いながら、姫と家臣が毒を飲んで眠りについたという伝説が残る島か。毒を飲んだという時点で、死んでるよな」
「まあねえ。家の再興かあ。新たな人生を始めた方がいいのにねえ」
「それが戦国時代、ロマンとか言うんでしょうね。でも、ばかね。それでどうやって家を再興する気かしらね。本気で再興する気なら、行動しなさいよ」
小さな船で島へ向かっているのだが、甲板で風に当たっているところだった。
「容赦ないなあ。でも、その通りだけど」
「それに絶対美化されてるよねえ。本当はどうだったんだろうねえ」
「仲間割れとか、悲観して死んだとか、ふぐに当たって死んだとかだったりしてな」
「怜。それはあんまりじゃない?化けて出て来ても知らないわよ」
話していると、キャビンから、他の出演者たちも暇を持て余したのか、ゾロゾロと出て来た。
「何が化けて出るって?ちょ、ちょ、ちょ。勘弁してよ」
「毎回怖いからなあ」
ミトングローブ左手右手。若手の人気お笑いタレントで、賑やかし要員である。
「この前も、本当に怖かった」
グラビアアイドルのえりなだ。きゃあきゃあと怖がる役目である。
「いやあ、この前はマジでダメかと思ったね。うん」
高田コージ。タレントで、皆のまとめ役である。
「家の再興を願いながら家臣と死ぬかあ。2人が恋人とかそんなだったらロマンチックだわあ」
ウットリ言うえりなさんに、美里がフンと笑う。
「だったら余計に悪いわ。2人で生き延びるべきでしょ」
流石、霊否定係だな。
「あ、見えて来た」
島が遠くに見えて来る。
僕と直は、ひっそりと心の中で祈った。わかめの妖精もきのこの妖精も出ませんように、と。
旅館は島に一軒しかなく、民宿という感じだ。部屋数も少なく、例え天下の大女優でも、相部屋である。
「男部屋がここで、スタッフの男部屋がここ、スタッフの女部屋がここ、女部屋がここ。これでいいですね。皆さん相部屋となりますけど、よろしくお願いします」
ディレクターの甲田さんがテキパキと言って、全員、部屋に入る。
真ん前に山があり、頂上に寺、そして、それに続く長い階段があった。
「まさか、あれ……?」
「まずいよぅ、怜」
いつの間にかカメラが回っており、高田さんとミトングローブ左手右手も後ろに立って、ゴクリと唾を飲んだ。
「え、ま、まずい?」
「はい」
僕と直は大まじめで振り返り、
「あんな長い階段、筋肉痛になりそうです」
と言ったら、高田さんたちは崩れ落ちた。
「あああ、思い出して来た!」
「これ、これだった!」
「筋肉痛か!」
「え?だって、長いですよ?急ですよ?」
甲田さんが、いい笑顔で親指を立てた。
「それはともかく、今回は伝説巡りで、ここで姫と家臣のミイラを見て、後は山形で座敷童の旅館に泊まって、八甲田山に上って終了でしょ。だから、大丈夫そうだよね」
「高田さん。それ、フラグだから」
ミトングローブ左手右手が言って、和やかに笑いが起こる。
そう。それは見事に、フラグとなったのであった。
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