第352話 ドッペルゲンガー(1)見ちゃった
ドッペル。ドイツ語で、コピーの事だ。自分そっくりなもう一人を見たら死ぬ、などとも言われているが、医学的には自己像幻視と呼ばれ、側頭葉と頭頂葉の境目に脳腫瘍ができた患者や、片頭痛の原因となる脳内血流量の変動による脳機能低下でも、もう一人の自分を見ると言われている。
しかし、それだけだろうか。
確かにそういう脳機能的なものが原因になっているケースもあるだろう。だが、それで説明のつかないケースがあるのも、また、事実だ。
「ドッペルゲンガー、ですか」
僕は、自習中のノートを横へやって、部室に駆け込んで来た学生を見た。
「詳しくお伺いしましょうかねえ」
「俺そっくりなやつと、今、会っちゃったんだよう!食堂で!俺死ぬの!?」
おろおろとして、テーブルに乗り出すようにして、彼が言う。
「まずは、どうぞ」
宗がハーブティーを出してやる。
依頼人はハーブティーを飲み、深呼吸した。
いきなり部室に血相を変えて飛び込んできて、
「ドッペルゲンガーが出た!助けてくれ!」
である。
「詳しくお願いします」
「食堂へ飯を食いに行ったんだけど、前から来たやつが、俺だったんだ。びっくりして、ただ見送って、それから慌ててここへ」
田部さんは言って、ハーブティーをもう一口啜り、溜め息をついた。
その時、ドアを開けて、後輩が入って来た。
「こんにちはーっ!」
そして、反射的にそちらへ目を向けた田部さんと目が合う。
「あ、先程はどうも。なんだ、お客さんだったんですね」
「え?あ……と?」
田部さんが、中途半端な顔で首を傾ける。
「あれ?でも、いつの間に着替えたんですか?それに、どうして着替えたのにぼくより早く着いたんです?
あ、双子ですか?」
楓太郎が首を傾け、部室内は、シーンと静まり返った。
豚の西京焼きを食べ、兄がうんうんと頷く。
「いい味だな」
「それに、だし巻き卵、ふわふわ!」
冴子姉は、だし巻き卵を嬉しそうに食べる。
大根おろしとじゃことねぎをポン酢で和えたものを添えただし巻き卵、豚の西京焼き、小松菜と桜エビとしめじの煮物、豆腐とわかめの味噌汁。
今日の冴子姉のお昼ご飯は、豆腐ハンバーグとブロッコリーとりんご、大豆とひじきの煮物、鮭と青じそのおにぎり、ミニざるそばだったし、おやつはナッツとビーフジャーキーだったので、バランス的にはどうだろう。
「それで、ドッペルゲンガーってどうなんだ、実際」
「うん。医学的にはそういう脳機能の低下でも起こると言われているが、他人にまで目撃されて、会話までしたらもう、それじゃあ説明がつかないしなあ」
楓太郎は、部室に来る途中でカバンをぶちまけ、それを通りすがりの田部さんのドッペルに拾うのを手伝ってもらったらしい。
「とにかく、現物というか、ドッペル本人というか、それに会ってみない事には何とも言えないな。明日から、どうにか探してみるよ」
僕は言いながらも、まだ、どう捉えるか決めかねていた。
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