第337話 ともだち(1)女子旅

 春休み。僕と直は、餅の大食いチャレンジをする動画をユーチューブ用に撮影している最中に餅を喉に詰まらせて亡くなった人の霊を浄化して、胸焼けしそうな思いで協会に戻っていた。

「しばらく餅は見たくないな」

 御崎みさき れん、大学2年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「何か、5年分くらいもう見た感じだねえ」

 直がウンザリしたように、胃の辺りを押さえる。

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「大食いはともかく、餅の早食いは危険かもなあ」

「詰まるよねえ」

「それで未練は、死んだ事じゃなくて、120個行く前に死んだ事って……」

「執念の方向が違うよねえ」

 感心するやら、呆れるやら。

 と、同時にスマホがメールを受信した。

「あ、美里だ」

 差出人の名前を見て言う。

 霜月美里しもつきみさと、若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。

 しかし、何度も「美里」と呼べと要求され、様を付けると返事をしない。

「何だろうな」

 メールを開けると、写真が出た。餅だった。

 思わず僕も直も、メールを閉じそうになった。

「何なんだよ、一体」

 いろんな餅料理が並んでいる。

「そうだ。エリカとユキと、3人で旅行に行ってるんだったよねえ」

「ああ、そうだった。

 じゃあこれは、何か?餅記念館か?」

 本文を開ける。


     エリカとユキと、女子旅を満喫中。いいでしょう!


 次は、餅つき中のエリカの写真が出て来た。

 立花たちばなエリカ、高校で同じ心霊研究部を創部した仲間だ。オカルト好きで、日々、心霊写真が撮りたいと熱望している。

 その次は、餅を丸めているユキだ。

 天野優希あまの ゆき、高校で同じ心霊研究部を創設した仲間だ。お菓子作りが好きな大人しいタイプで、慣れるまでは人見知りをする。

 そして、あんをまぶしている美里だ。

 成人式の日に3人は初めて顔を合わせたのだが、話をしているうちに意気投合したらしい。珍しくユキもすぐに打ち解けて、その場で電話番号とアドレスの交換をしていたと思っていたら、3人で旅行へ出かけているらしい。

「楽しそうだな」

「美里って今まで友達いなかったしねえ」

「ま、良かったよな。

 ん?」

 最後の写真で、引っかかる。3人で餅の乗った皿を持って笑顔で並んでいる写真なのだが、4人目がいた。

「霊だな」

「霊だねえ」

 透き通った若い女で、3人の上から、苦しそうな表情で3人を眺めている。

「気になるな。何か、しでかしそうな」

「連絡してみるかねえ。それとも、行ってみる方がいいかねえ?」

「そうだな。取り敢えず連絡して、様子を訊いてみるか」

 すぐに、美里に電話をかけてみる。

『はい。フフフ。いいでしょう』

「楽しそうで何よりだよ。ところで、今、どこにいるんだ?」

『丹波から、天橋立に向かってるバスよ。今日は海鮮よ』

「へえ、それはそれは。

 ところで、何か変わった事は無いか?」

『変わった事?特に無いと思うんだけど。

 エリカ、ユキ。怜からで、変わった事が無いかって――キャアアアア!!』

 ブレーキ音と何人もの悲鳴が重なって聞こえて来る。

「どうした!?おい!?」

 ザワザワとした雑音が続き、しばらくして、電話口に美里が戻って来る。

『バスが事故に遭ったわ、今。急に前のトラックが倒れたんだけど、運転手さんの反射神経が凄かったみたい』

 僕と直はそれを聞いて胸を撫で下ろした。








 

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