第337話 ともだち(1)女子旅
春休み。僕と直は、餅の大食いチャレンジをする動画をユーチューブ用に撮影している最中に餅を喉に詰まらせて亡くなった人の霊を浄化して、胸焼けしそうな思いで協会に戻っていた。
「しばらく餅は見たくないな」
「何か、5年分くらいもう見た感じだねえ」
直がウンザリしたように、胃の辺りを押さえる。
「大食いはともかく、餅の早食いは危険かもなあ」
「詰まるよねえ」
「それで未練は、死んだ事じゃなくて、120個行く前に死んだ事って……」
「執念の方向が違うよねえ」
感心するやら、呆れるやら。
と、同時にスマホがメールを受信した。
「あ、美里だ」
差出人の名前を見て言う。
しかし、何度も「美里」と呼べと要求され、様を付けると返事をしない。
「何だろうな」
メールを開けると、写真が出た。餅だった。
思わず僕も直も、メールを閉じそうになった。
「何なんだよ、一体」
いろんな餅料理が並んでいる。
「そうだ。エリカとユキと、3人で旅行に行ってるんだったよねえ」
「ああ、そうだった。
じゃあこれは、何か?餅記念館か?」
本文を開ける。
エリカとユキと、女子旅を満喫中。いいでしょう!
次は、餅つき中のエリカの写真が出て来た。
その次は、餅を丸めているユキだ。
そして、あんをまぶしている美里だ。
成人式の日に3人は初めて顔を合わせたのだが、話をしているうちに意気投合したらしい。珍しくユキもすぐに打ち解けて、その場で電話番号とアドレスの交換をしていたと思っていたら、3人で旅行へ出かけているらしい。
「楽しそうだな」
「美里って今まで友達いなかったしねえ」
「ま、良かったよな。
ん?」
最後の写真で、引っかかる。3人で餅の乗った皿を持って笑顔で並んでいる写真なのだが、4人目がいた。
「霊だな」
「霊だねえ」
透き通った若い女で、3人の上から、苦しそうな表情で3人を眺めている。
「気になるな。何か、しでかしそうな」
「連絡してみるかねえ。それとも、行ってみる方がいいかねえ?」
「そうだな。取り敢えず連絡して、様子を訊いてみるか」
すぐに、美里に電話をかけてみる。
『はい。フフフ。いいでしょう』
「楽しそうで何よりだよ。ところで、今、どこにいるんだ?」
『丹波から、天橋立に向かってるバスよ。今日は海鮮よ』
「へえ、それはそれは。
ところで、何か変わった事は無いか?」
『変わった事?特に無いと思うんだけど。
エリカ、ユキ。怜からで、変わった事が無いかって――キャアアアア!!』
ブレーキ音と何人もの悲鳴が重なって聞こえて来る。
「どうした!?おい!?」
ザワザワとした雑音が続き、しばらくして、電話口に美里が戻って来る。
『バスが事故に遭ったわ、今。急に前のトラックが倒れたんだけど、運転手さんの反射神経が凄かったみたい』
僕と直はそれを聞いて胸を撫で下ろした。
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