第338話 ともだち(2)風呂場で焦る

 新幹線と在来線で、僕と直は美里達と合流した。3人はケロリとしたもので、旅行を満喫していた。

「怜に直。来たの」

「羨ましかったんじゃないの?うふふふふ」

「まあまあ。明日は一緒に回れますね」

 気付いてないらしい。

「あのな。送ってもらった写真に、その、写っててな」

 一応声を潜めて言うが、3人共即座にスマホを確認した。

「やった!心霊写真よ!」

 エリカの反応がおかしい。まあ、想像通りだが。

「まあ、これも記念ね。でも、地味な幽霊だわ」

 美里も変だ。まあ、ロケでは散々もっと派手なものを経験してるからな。

「苦しそう。お餅を喉に詰まらせて亡くなった人だったりするんでしょうか」

 ユキ、それは別口だから。

「3人共、逞しいねえ」

 直が苦笑する。

「そうだな。良くも悪くも、慣れてるからかな。心配して損した気分だな」

「まあまあ。危険なのには変わりないんだしねえ」

「まあな」

 僕と直は小声で言い合っていたが、3人は楽しそうに、このお餅が好きだの、こうすれば良かっただのと喋っている。

 危機感は全くない。

「慣れって危ないな」

「そうだねえ。ボク達は気を付けないとねえ」

「バス以来、何もないか」

「無いわよ」

「2人共、ホテルは取ったの?」

「いや、今、駅から来たところだから」

「じゃあ、同じホテルにして、夕食一緒にしない?」

「そうですね。空いてるといいんですけど」

 言いながら、歩き出す。

「いや、泊まるのはいいんだけど、僕達、霊を祓いに来たんだぞ」

 言った途端、3人が驚いたように振り返った。

 いや、その反応に驚くよ。

「仕事なの?」

 美里が詰まらなさそうに訊く。

「仕事じゃない。写真で見たら危ないかなと思って。な」

「そうだよぉ。バス事故まで起こるしねえ」

 なぜか言い訳している気分になりながら僕と直が言うと、3人は笑いながら言った。

「心配してくれたの?ふうん」

「お昼御飯前に合流できてたら、美味しい海鮮丼の店に行けたのに」

「ねえーっ」

 3人で仲良くハモっている。

 脱力してしまう。もしかして、僕と直は来なくても良かったんじゃないか?直も、半笑いだ。

 まあ、バス事故以来何事も無くて良かったよ。

 そう思っていると、急に気配が膨れ上がり、写真に写っていたあの霊が現れる。

「あ」

 僕と直が同時に見た方向へ、

「まさか!?」

と言うや、エリカがカメラを向ける。

「バス事故も、あなたですね」


     仲良し?友達?そんなの信じない。続かない。


 霊の若い女は、ぶつぶつと言いながら美里達3人を見ている。

 恨みとか、そういうものではなさそうだ。

「何か、言いたいんですか」


     友達でいる間に、裏切られる前に終わらせてあげる。


 物騒な事を勝手に言って、消えた。

「会話にならないな」

「ねえねえ、何て?」

 美里が訊いて来る傍で、エリカが残念そうに声を上げる。

「写ってなあい!」

「残念ね」

 ああ。悉く、気が抜ける……。


 ホテルは空いていたので部屋が取れ、夕食は、個室でのお食事処で5人一緒に取る事になった。

「札を渡しておくから、持っていてねえ」

 直が札をさらさらと書いて、3人に渡す。

「わかったわ。

 夕食前に温泉行かない?」

「行こう、行こう!」

「ナトリウム泉ですよねえ、ここ」

 女子3人はウキウキと部屋へ入って行く。

「わかってるのかな」

「心配になってくるけど、大丈夫だよ……多分ねえ」

 そう信じたい。

「こっちも温泉に行くか」

「せっかくだしねえ」

 僕達も部屋に入ると、準備をして大浴場に向かった。

 露天風呂は夕日が見え、檜風呂、壺湯、岩風呂がある。内湯は普通の浴槽の他に、ジェット、電気風呂、サウナがある。

「明日は、あの餅つき体験をした所にいってみようか」

「そうだねえ。あそこで憑いたみたいだしねえ」

 順に色々と入りながら、今後の予定を相談していた時だった。

 近くで、霊の気配が膨れ上がる。

「出たか!?」

 急いで行こうとして、ハッと気付いた。

「女風呂か!?」

「ああーっ!?」

 想定外だ。困った。どうしよう!?

 それでも脱衣所へ駈け込んで手早く浴衣を着、廊下へ飛び出す。

「ど、どうしよう」

「困ったねえ」

 ウロウロ、オロオロとする僕達を、通り過ぎる客がジロジロと不審者を見るように見て行く。

 気配そのものは消え、待っている内に3人が出て来る。

「大丈夫か!?って、大丈夫そうだな」

 3人はケロリとして、

「ああ。途中で何か溺れそうになったんだけど、美里が脱衣所に札を取りに行ってくれて助かったわ」

「素早い対応でしたね」

「ありがとうね、美里」

「ふふふ。友達じゃないの」

 ホッと溜め息をつく。気が抜けたからか、くしゃみが出た。

「髪の毛、濡れてるじゃないの。乾かしてらっしゃいよ」

 美里が言う。

「もう一回ぬくもって来たら?カゼひくわよ。仕方ないわねえ」

 エリカが上から目線だ。

「男の子って、こういうものかも知れませんよ」

 ユキまで……。

 お前ら。何で飛び出して来たと思ってる――クシュン!

「行って来る」

「ボクも」

 女3人に、口で敵うとも思えない。僕と直は、すごすごと脱衣所に戻って行ったのだった。

 霊の女に、そこはかとなく怒りを感じながら。






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