第329話 ハレの日に(1)成人式

 成人式。毎年テレビで、大暴れする新成人が報道されたりするが、僕達の所は平和だ。親子同伴なんていう参観日みたいな出席者もいるが、全国的に、今は許可している自治体があるらしい。大人しいのはそのせいなのか。

 そしてあちらこちらで、同窓会のようなグループができていた。

 僕と直も会場へ出かけたら、エリカとユキに会った。

「あら、久しぶり。元気でやってるみたいね」

 立花エリカ。私立女子大の国文学科に進学したはずだ。幽霊が見たい、心霊写真が撮りたいと熱望していたのが高じて心霊研究部を作ったくらいのオカルト大好き女子だったが、今はどうなんだろう。

「お久しぶり。相変わらず、仲がいいのね」

 ユキがにっこりと笑う。

 天野優希あまの ゆき。お菓子作りが趣味の大人しい女子だ。私立女子大に進学し、カウンセラーを目指しているはずだ。

「そっちも元気そうだな」

 御崎みさき れん、大学2年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「久しぶりだねえ。2人共、振袖似合ってるよ」

 町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

 高校時代、この4人で心霊研究部を創部し、思えば色々と危ない事もやってきた。そういう、仲間だ。

「えへへ。そう?」

 ついうっかりと「馬子にも衣裳だな」と言いかけて慌てて飲み込んだ。

 ユキがピンクの振袖が似合っているのは当然という気もするが、あのエリカに赤い振袖が似合っているのは、七不思議ではないだろうか。

 まあ、黙っていれば、性格はわからないからな。

「怜。何か失礼な事考えてない?」

「いや、別に」

 エリカは、カンだけはいい。

「まあいいわ。

 2人共、スーツなのね。男子は大半がスーツだけど」

「袴とか面倒臭い」

「だよねえ。何か、ヤンキーの人には袴が多いんだよね。どうしてだろうねえ」

「なぞだな」

 お互いの近況を話したり、写真を撮ったり――霊がどこかにいないかとエリカに訊かれた――して開場を待っていると、フッと、気配がした。

 見ると、小学生くらいの男児の霊を憑けた男が歩いていた。

 どこかで見たやつだなあと思ったが、霊を見て思い出した。というか、霊の姿が、知っていた当時の姿そのものだった。

 男と目が合う。気弱そうな、自信のなさそうな表情と雰囲気。

「松浦、だったか」

 男は少し笑って、足を止めた。

「良く覚えてたね。僕はテレビで見たから、御崎君の今はわかってたけど」

「まあな。その、子供の頃の姿がな。見えて」

 松浦は笑った。

「そうか、そりゃあ見えるよね。双子の兄の信成だよ。僕が頼成で、合わせて信頼。

 あの頃は見えなかったんだっけ」

「ああ。高校の入学式の前日に、いきなりな」

 運命の日だ。

「そうだ。こいつらは高校時代の友人で、エリカとユキ。こっちは名前は何度か出しただろ。直だ。

 彼は松浦君。施設で一緒だった」

「初めまして。松浦頼成です。

 そうかあ。困ったな。御崎君だけは友達だったから……。

 御崎君、成人式に出ないでいてもらえないかな」

 僕達は、首を傾げた。

「ええっと?」

 直が促すと、頼成は困ったように言った。

「兄が、その、ちょっと……」

 そして信成が頼成に重なると、途端に表情も雰囲気もガラリと変わって 、気弱そうな表情がなりを潜める。

「これ以上は言えない。頼成が世話になったから、まあ、お前らだけは助けてやるよ。今から帰れ。じゃあな」

 言うだけ言って、スタスタと歩き去って行った。

「どういうことかしら?何かするつもり?」

「そういう風に聞こえたわね」

「怜、どういう奴だったんだ?」

 3人に聞かれて、僕は当時を思い出し始めた。





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