第328話 死の森(3)新たな敵
丁度欲しい所に札が来る。足元を確認するまでも無く、札の階段を駆け上がり、蹴って向きを変え、それを斬り飛ばして核の部分を斬る。
もう再生は行われず、それは崩れ、消えて行った。
すぐに、体の中で、浄力を練り、一気に放つ。
それに合わせて、周囲の霊がサアッと浄化されて消えて行く。
「ええっ!?まさか樹海中の!?」
「まさか。山手線の面積くらいあるんだぞ。流石にな。
というわけで、そろそろ来るぞ」
「何が?」
「揺り返しとでも言うかねえ」
言いながら直が結界を張るので、その内側にこもる。
少し待つと、凄い勢いで、雑霊の類なども含めた大量の霊が集まって来る。
「うわ……」
それを、言葉も無くただ見つめる。
「よそならこんな事は起きないんだが、ここは霊が多いからな」
「しかたないねえ」
僕と直はのんびりとそれを見物しながら、収まるのを待った。
やがて流入は止まり、各々が散って、安定した距離感を作り出す。
「こんなもんかねえ」
結界を解除し、直は辺りを見廻す。
「大移動させたなあ。悪かったな」
僕は頭を掻いた。
中心地帯になっていたところには、1枚の札が落ちていた。僕が斬ったのでもう効力は無いが、それでも、何の札かはわかる。
直はそれを拾い上げて眺めていたが、フムフムと頷いた。
「これが貼り付いた霊をまず活性化させ、周りの霊を活性化させながら吸収していくようにしてあるねえ」
班長達も覗いたが、すぐにギブアップした。
「わからん。流石、札は町田だな」
「上に報告しておかないとな」
田中さんは僕達4人がアッサリしているのに、今頃あたふたし始めた。
「え?え?それだけ?これだけの事をして、そんな札をすぐに解析して、それだけ?」
班長と先輩は、半笑いで、
「すぐに慣れる」
と短く答えた。
ガックリと崩れるように手をついて体を支え、ぜいぜいと乱れる息を整える。
「フン。ここまでか。せっかく面白い事を考えついたのに。つまらん。失敗か。実につまらん。
だが、あいつらは面白い。また遊んでくれよう」
いつからか獄炎と名乗り、己の本名も忘れたその外法師は、ニヤリと口元を歪めると、静かにその場から姿を消したのだった。
その夜は皆で樹海の中にある民宿に泊まり、合宿か修学旅行のような雰囲気で騒いだ。
半数くらいがアルコールで宴会をし、残りは、ゲームなどをしていた。昭和の人生ゲームや野球盤などがあり、年齢層が高い先輩達は大喜びだった。
僕と直は囲碁を打ってから入浴し、明日が晴れる事を祈っていた。
「ここ、晴れたら正面に富士山が見える一等地だって。見たいなあ」
「晴れて欲しいよねえ」
「それから、帰りはサービスエリアで、お土産買わないとな」
「怜は何買うのかねえ」
「兄ちゃんの好きな半ボイルの桜エビは外せないな。あと、冴子姉はジャーキーかな。それに、チーズとかチーズケーキとか。
直は?」
「ボクはほうとうかねえ。晴とかは『山梨なら水晶が有名でしょ』なんて言ってたけど、それは無いわあ」
「無いなあ。
あ、ワインは?おばさん、ワイン好きだろ」
「そうだねえ。その辺で勘弁してもらおうかねえ」
「明日も、もうひと頑張りだな」
「そうだねえ」
見上げると、星が驚くほどたくさん見えた。
「あ、流れ星。
明日晴れますように。兄ちゃんが元気でいられますように」
「明日富士山が見えますように。無事に仕事が済みますように」
僕達は、流れ星に祈った。
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