第327話 死の森(2)死者の声

 樹海中の気配が濃くなっているようだ。その中を、田中さんを探して歩く。

 その途中で遺体を見つけた時は、位置を記した札を飛ばして、先へ進む。

「夕方が近いにしても、この気配は何だろうねえ。樹海はいつもこんな感じなのかねえ」

「まずい事態になってないといいんだが……あ、いた!」

 先の方で、木々の間に見え隠れしながら何かしている人影があった。田中さんのようだ。手に、何かを持っているように見える。

「田中さん!」

 声をかけながら近付き、ゾッとした。

 手にしているのは、古い、一本の太いロープだった。それを、頭より少し高い枝にかけていたのだ。

「田中さん!」

 呼んだが、反応はない。表情の抜けた顔つきで、黙々と、枝にロープを引っかけて、輪にしている。そう、頭が入るくらいの大きさの輪だ。

「追い出すぞ」

「はいよ」

 田中さんの背に手を当て、強引に浄力を叩きつけて憑りついているものを出す。そして直は、無防備になっている田中さんを結界で包んで守る。

「田中さん!田中さん!」

 直が呼んでいるうちに、田中さんは自我を取り戻したらしい。ハッとしたように辺りを見廻し、霊がひしめいているといってもいい状況に、ヒッと短く声を上げる。

「霊に憑りつかれていましたよ。それで、首を吊るところだったんですねえ」

「霊に……あ、ロープを踏んで、それから何かぼんやりと……」

 田中さんは思い当たるフシがあったようだ。

「強引に仲間に引きずり込もうとするのはいただけませんね」

 辺りを漂う霊は数を増やし、グルリと取り囲むようにして、


     オマエラモ シネ


と繰り返す。

 そしてそれに、何か外部からの力が加わった。

「ん?」

 何か、術のようだとはわかる。だが、それが何かはわからない。

 しかし見ていると、霊が次々に合わさり、力が増し、1つになると、実体化していく。

「実体化を促す術?そんなものがあるのか。あっても、外法だろうがな」

 直は札を飛ばして式にし、班長へ事態を知らせた。

「斬らないとなあ」

 刀を出し、対峙する。

 先に動いたのはどちらか。

 3メートルはあるそれの足を斬り、地面に這わせる。ついで、腕を肩口から斬って攻撃を封じる。

「材料はあるってわけか」

 失くした分を、後から後から集まって来る霊で補い、再生していく。

「根競べか」

 斬る、斬る、斬る。再生、再生、再生。

 そうこうしている内に、班長と先輩が直からの知らせを受け取って駆けつけて来た。

「おう!やってるな!」

「田中さんをお願いしますねえ」

 田中さんを班長達に任せ、直が、定位置に着く。

「広範囲に祓うのがいいと思うので、無線で連絡してもらえますか」

 ここだけ祓うと、真空状態になった所へ空気が一気に流れ込むように、辺りの霊がここへ急速に流れ込んで来かねない。ある程度、広範囲に祓う必要がある。

「霊に先導されて、遺体の所へ向かっている人がいるかも知れないからねえ」

「わかった」

 班長はすぐに無線で連絡を取り、すぐに、

「OKだ」

と言った。

「え?広範囲って、そんなの」

「いいから、まあ見てろ」

 田中が狼狽えるのを、班長は気楽そうに宥める。

「さあ、逝こうか。

 その前に、こいつの始末だな。直」

「いつでも」

 いつものコンビネーションで、飛び出した。


 







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