第318話 はじめての○○(2)公園

 僕と康介は、公園を目指していた。目指していたはずだ。しかし、僕と手をつないでよたよたと歩く康介は、蝶や猫が視界に入る度に、ふらふらとそちらへ進路を変える。

 今僕達は、どこへ向かっているのだろう……。

 しかし目的地を思い出したのか、覚えていたのか、偶然なのかは不明だが、公園へと辿り着く。

 以前殺人事件が起きた三角公園とは違い、子供が――天敵がいっぱいいた。こちらの方が、広いし、遊具も多いのだ。

「ううううーん!きゃあ!」

 康介は奇声を上げて、まずはブランコに突撃していく。乗れるのか?

 ブランコの競争率は高く、4つ共もう少し大きい子で塞がっており、お母さん方と思われる女性達が、近くで話をしていた。

「ああ……」

「康介、あっちの滑り台はどうだ。面白いぞ。僕はあっちをお勧めする」

 指差すと、康介は聞き分けてくれたのか、滑り台へと走り出した。その後を、僕も急いで追う。

 階段の下で、上れずに引っかかった。足をかけて、また下ろし、こちらを見上げる。上まで連れて行けという意思表示か?

 脇に手を差し込んで抱き上げ、滑り台の階段を上り、天辺でおろした。

「はい、到着」

「ああわあ」

 また、見上げて来る。何なんだ、一体。ペットの鳴き声を翻訳する機械があるが、先に、幼児の言葉を翻訳する機械を作るべきだ。今度、投書しようか。

 そんな事を考えていると、見つめ合っているのにしびれを切らした康介が、両手を僕に差し出した。

 抱っこ?下りるのか?上ったばかりだが……。

「あ」

 抱いて滑れと言っているのか。

 やってみると、きゃっきゃと喜んで、また、キラキラした目で僕を見上げて手を差し伸べた。

「もう1回か?」

「あー、あー」

 17回、繰り返した。

「康介、そろそろ、別の事をしないか。僕は本来、インドア派なんだよ」

 願いが通じたのか、康介は砂場に向かって僕の手を引き始めた。

「砂場か。これならジッとしていられるな」

 僕はホッとしながら、砂場の中に入った。

 一緒に山を作る。富士山タイプだ。

 と、隣の子が、城のような物を作っていた。

「ん!ああ!」

 また、何かを訴える。

「別の物がいいのか?剣岳か?マッターホルンか?」

「うああ」

「ビルはどうだ」

「うう」

「城は、あんまり詳しくないからな。日本の城は難しそうだし、かと言って、ヨーロッパの城もなあ」

「ああ……」

「そうだ。塀はどうだ。世界遺産のやつだぞ」

「うあ?」

 それで延々と、塀を作った。万里の長城だ。

「きゃっ、ああー、あー」

「わかるのか?康介は歴史が好きなのかもしれないな」

 康介の周りを一周するように壁を作る。

「できた」

 決して、この中で大人しくしてくれという希望ではない。断じて。

「ああ!」

 康介は壁に手をかけると、突然怪獣ゴッコを始めた。

「ふぁやああ!」

「わああい!」

 隣の子も一緒になって、怪獣ゴッコを始め、次に、妖怪砂かけババアゴッコを始める。

「康介、人に砂をかけては――ペッ、ペッ」

 僕は2人から、豆をまかれる節分の鬼のように砂をかけられた。

 その子のお母さんが来て、笑いながら

「お兄ちゃんに遊んでもらったの、良かったわねえ。帰って、ジュース飲もうか。

 ありがとうね。ぼくも、またね。バイバイ」

「ああー」

「ばいばーい」

 妖怪は親に手を引かれて退場した。

「こ、康介、家で絵本でも見るか」

 服についた砂を、自分も康介のもはらい落とし、砂場の外で、靴の中の砂もはらう。

 康介は大人しくされるがままになっていたが、僕が自分の靴の中の砂をはらっていると、よろよろと歩き出す。

「あ、待って、康介、タイム、ターイム」

 僕も慌てて康介を追って、グラウンド部分に向かう。

「え、まさか……」

 康介はそこにいた小学生らしき男の子の前で、立ち止まった。

「あれ。ぼくが見えるの」

「ああい!」

 彼は、霊体だった。






 

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